【前回の記事を読む】【小説】感じていた違和感。妻の隠し事の証拠は…1枚の名刺
探偵が突き止めたのは…
雨はまだしとしとと降っている。昼飯に今朝二人にこさえた朝飯の残りと発泡酒の缶を一本開けてから、私は厭世観そのままに、再び坂道を下って浅井と待ち合わせのファミレスに向かった。約束の十分前に着いたが、浅井はもう奥の席に鎮座していた。
「浅井ちゃん、すまなんだなぁ」
私は挨拶のように礼を言った。すぐにウエートレスが注文を取りにきたので、ドリンクバーを頼んで向かいの席に座った。
「水臭いこと言うなよ。それより餅は餅屋やで、やっぱり探偵はやることが早い。二、三日で簡単な素性を調べて、この証拠写真は昨夜の張り込みでや」
浅井は三枚の写真をスッと私の前に出した。
「やけに嬉しそうやないか?」
浅井の話しぶりが癇に障り、つい口走った。
「他人の不幸は蜜の味やって」と、言葉を加えた。
「正さん、それ何の皮肉や、ワシ怒るで!」
それはそうだ。私から頼んでおいてそれはない。
「すまん、すまん、冗談や」
「気持ちはわかるけど、ワシに当たってもしょうがないで」
「こんな折や、冗談でも言わんと」
自分の捻くれた愚かさに呆れて苦笑をつくったが、浅井は真顔だった。互いに相手の本心を探り合うような気まずい空気が流れた。私は浅井から視線を外してその写真に手を伸ばした。三枚の写真には車に乗り込もうとする男女が写っていた。暗くて鮮明ではないが街路灯に浮かんだ女の顔は確かにユリだった。
「それ、やっぱりユリさんか?」
浅井の言葉が私を哀れんでいるかのように心に響いた。私は三枚の写真を手に取ってじっと見つめていたが、抑えきれない嫉妬と落胆が込み上げてきて胸懐はさらに歪んだ。やはりこれが事実かと、手にした写真をポンと突き放すようにテーブルの上に置いた。
「この車の横がその男の店ちゅうか会社兼自宅や。一階が倉庫で二階が事務所、三階が住居で、嫁さんと子供とは別居中でここにはおらんけどまだ籍に入っとる。仕事は欧風家具の輸入卸で、使用人は二、三人ってとこらしい」
事務報告のように説明し、浅井は制御不能に至らんとする私の感情を無視するかのように、その写真を一枚一枚ていねいに手に取って束ねテーブルの真ん中に戻した。
「この費用はどうしよう?」
私は息を整えて聞いた。
「この探偵はワシに借りがあるよってってタダや。そんなことより正さん、このあと、正直どないするんや?」
「まぁしょうがないやないか、ちょっと様子見とく」
私は自嘲するような薄ら笑いを浮かべながらこの空気を払拭した。だが、浅井は私の言ったことなど真に受けていないのか、表情は変わらない。
「なぁ、正さん、こんなときに聞くのはなんやけど、正さん、なんで大阪捨てたんや?」
「なんや? 藪から棒に」
話題が急に変わったことにいささか戸惑う。