【前回の記事を読む】元詐欺の受け子との会話、個人情報の驚きの収集方法とは…
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大木は岩手県出身。高校卒業後、東京の文東大学、つまり省吾、冬彦、若宮の卒業した大学へ行った。
文東大学は国立の二流大学で、偏差値のわりに就職率が低い。それでも体裁を気にして親も本人も進学を希望する。そして本人が頑張って受験勉強して入学するが、学校を卒業する前の就職試験の時、会社からは学力よりも協調性や礼儀、センスを問われる。
大木が就職した会社は「TOF」と言うが、大木の仕事は営業だ。上司の言いなりになって指示通りに動くタイプの人間が高く評価される。大木は営業が得意だったが、上司からの指示とは違う独自の手法で成績を上げた。
しかし、上司から「客のニーズに答える仕事をしろ! 客を騙したり弱みにつけ込んで、あとで反感持たれるような仕事はするな!」とダメ出しされ、結局自主退社。
その後、自身の会社を立ち上げようと知り合いからお金を集めたが、それが簡単に集まるため、会社を作るより詐欺の方がうまくいくと考えた。震災で家族を失った大木は、震災の義援金を集めて自分のものにした。その後、オレオレ詐欺の受け子。そこから出世して箱長へ。更に職に恵まれない人間や、社会から認められず生きて行くことに見通しが立たない人間を集め、殺人依頼を請け負う会社、「パーフェクト」を設立。
しかし、パーフェクトは名ばかりで、株式会社でも有限会社でもない。放置された部屋を塾や会社として使っていただけなのである。
省吾は資料室の中から大木のアルバムや卒業文集、更に大木が中学からサッカー部に所属していたことがわかった。因みに省吾もサッカー部だった。なぜか会社勤めをしていた時の写真もそこに隠されていた。
その会社の中で好きな女性社員でもいたのだろうか?
大木は結婚はどうだったのだろうか?
その写真はない。しかし、元いた会社の人間に聞けば情報が得られるかもしれない。そこで、大木のいた会社「TOF」の写真に写っていた女性社員に聞き込みをすることにした。
「大木君は、営業にかけては本来断トツ一位の能力だったと思います。でも、上司から教わった良識ある営業とはかけ離れていて、人の心の弱点をえぐる特技があったんです」
「例えば?」
「いくつもありますよ。自信家、病弱、容姿端麗主義。正統派には、相手の正義感をむき出しにさせて思いのままに操るんです」
「それでどうするんですか?」
「語らせた後は引っ込みがつかなくなって、お金を払わざるを得なくさせるんです」
「どんな風にですか?」
「うちの会社は健康器具が主でジムもやっているんです。……『昔はスポーツマンだった方やあなたのようにトロフィーのある方はきっと大会で優勝出来ますよ』って言うんです。……それでその気になってジムに入会してスポーツ用品を買うんですが、あとで思っていたことと違うと後悔するんです。うーん、それから、女好きな人には『ジムに通えば女性と知り合う機会が出来ます』と具体的に美女の口説き方まで教えます。それから、正義感が強い人にはありもしない自分の悲劇的な失敗談で相手に同情させてお金を払わせる作戦に出るんです」
「営業の方がよくやる手ですよ」