「あっ、それだけじゃないですよ。これ、ホント、噂だから確かなことはわからないんですが、大体昼間は主婦を相手に営業をして、家に上がり込んで……ほら、親しくなって……家の中の様子がわかったり、お金の隠し場所まで……」

「お子さんは?」

「そうね、幼稚園に行っている間とか、まだ赤ちゃんのいる人とか若い人を狙うんですよ」

「誰がそんなことを言ったんですか?」

「会社の人です。多分そういうことじゃないかって噂、あくまでも噂ですよ。それも、一人や二人じゃないんです。何度か苦情の電話がありましたから」

「じゃあ、その話に乗った女性は、浮気がばれるといけないからってお金を取られても言わないんですね」

「そういうことだと思いますよ、見てないからわかりませんが」

「その、家に上げた奥さんもまんざら嫌がっていなかったんですかね」

「そうでしょ! 会社の中でも大木さん、人気あったんですよ。だって、あの顔でしょ?」

「はあ、なるほど。それで、大木さんは結婚しなかったんですか?」

「ここにいた時はしてなかったですよ。今はわからないけど」

「いろいろありがとうございました」

大木の性格がだんだん明らかになってきた。

つまり、容姿にもトークにも自信のあった大木は、TOFの営業で、人との会話で金儲けをするマジックトークを身に着けた。しかし、良識のあるやり方でないため、周りからの批判を受け、TOFは自主退社。その後も、詐欺、殺人と犯罪を徐々にエスカレートさせ、何十人もの人を洗脳して罪を犯させた。また、それをうまくカムフラージュして、刑事に誤認逮捕させる犯罪のエキスパートになったというわけだ。

省吾は猫を飼っていたアパートの女、沼田今日子に大木の写真を見せた。

「この方があなたが言ったレストランのお客さんの三船健一さんですか?」

「そうです! この人です!」

「この人は大木正臣と言って、パーフェクトという架空会社の社長で、事件の主犯です」

「いい男だからついつい本気になっちゃいましたよ」

「それで、この男の行方を捜しているんですが、男から預かったものはないですか?」

「犬にでも捜してもらうんですか?」

「そうです。犬と言っても……まあ、話せば長くなりますが……」

「うーん、私より、その時オーナーやってた……また名前が偽名でしょうけど、その人の方がわかるんじゃないかしら」

「オーナーですか? どんな顔だったかわかりますか?」

「私が絵を描くんですか?」

「僕でもいいですよ」

「じゃあお願いします」

そして、省吾はオーナーの似顔絵を描いて尾藤や他の受け子に聞いて回った。その結果、オーナーの名前が山田智和ということがわかった。しかしそれは偽名だった。