【前回の記事を読む】オーケストラの音はバラバラにならない?聴感覚の成立を解説!
聴感覚と注意
ここで、聴覚と注意とに関して、初期選択説と後期選択説というのがあり、どちらが正しいのかという議論があります。
初期選択説は、注意による入力情報の選択は聴覚情報処理の初期段階で行われるとするものです。初期というのは、物理的な(感覚的なともいえる)段階での知覚、言語でいえば意味がわかる前の段階での音声として(だけ)の知覚ということと思われます。また後期選択説は、すべての入力は意味分析を受けたあとに選択を受けるというものです(1)。
これは、音声に注意が向けられる場合に、情報処理のどの段階で注意が向けられるのかについての議論ということです。まず注意に関してですが、注意とはさまざまな情報の中から一つを選択する過程といえると思います(選択的注意)。
この場合、その対象に注意を向けるには、それなりの理由があると考えられます。例えばそれに興味があるということも理由の一つでしょうが、興味があったとしても、必ずしも注意を向ける必要はないわけで、ある時点ではそれに全く注意が向けられないかもしれません。
また、ふだんの日常生活においての注意の向け方と、何らかの課題遂行においての注意の向け方では、おそらくちがいがあるのではないかと思われます。日常生活での注意は、完全に個人的な志向に基づいていて、十人十色ともいえるのではないかと思います。何らかの課題遂行の場合は、そのための決められたルールにのっとって注意を向けていく必要があるでしょう。
進化の過程としていわれていることは、敵をすばやく察知して逃げるために、ふだんとはちがう音などが聞こえれば、敵が近づく音かどうかすぐにそちらに注意を向けるなどのことがいわれています。
現在でも、急に近くで大きな音がすれば、身の危険を感じてすぐにそちらに注意が向くのではないかと思います。注意を向けるということは、もちろん自分にとって重要な内容に対してということもあるでしょうが、そうでなくてもその瞬間に注意を向けるべき何らかの理由があるときということと思います。