天狗岩にて
祝いごとがあり田舎に帰ってきた。
翌日一日空いたのを幸い、兄に天狗岩へ連れて行ってくれるよう頼むと快く引き受けてくれた。同じ町の中ではあるが、向かいの山の頂にある天狗岩、同級生とか、いろんな人からいろんなことを聞いているがまだ行ったことはない。軽トラックがよいということで兄の車で行くことになった。
西山の頂上近くに浦山という在所があり、細く急な道が続く、軽トラでよかったなと思う処が何か所かあった。浦山を越してもう少し上ると神社があり、五、六台停められるほどの境内があり、其処からは歩くことになった。道はなだらかな尾根伝いになっている。少し歩くと道の両側に雑木が生い茂り、道幅は極端に狭くなった。
兄が、儂、今から神主になるからあとについて来いと言い、葉の付いた小枝を取り、祓い給え浄め給えと言いながら上下左右に振りながら進む、それでも後ろに続く私の顔に容赦なく蜘蛛の糸が絡んでくる。湿った道の所で後ろから来た大きな蛇が二人の横を身をくねらせながら追い越していき、十メートルほど先で林の中に消えた。
兄が、
「蛇が出るにはまだ時期が早いけんどのう」
言いながら進んでいく。
山の向こう側の半田の在所が見える所まで来ると少し開けた所があり、其処に腰を下ろした。兄が私に問いかけてきた。
「幽霊を見んようになるんはどうすりゃええんかのう」
藪から棒にというか、
「いきなり何の話、幽霊を見るんかいな」
「大原の高ちゃんが二回来たというか、出たというか、飯が食えへん、何とかしてくれ言うんじゃ」
山の在所の何軒か上の家である。どう対応したか聞いてみると、
「あんたとは同じ在所というだけでふかいつき合いもないぞ、自分の子供なり縁者の処へ行ったほうがええぞ、と言うたら来んようになった、それより前に山仕事で高ちゃんの家の近くを通ったとき、畑の中の道を廃屋になった家に向かって五、六人の幽霊が一列になって行くのを見たことがある、それを見たから儂のとこに来たのかなあ」
「あの家も、誰も住んどらんのかいな。子供や孫も皆都会に出て、家を継ぐ者はおらん、在所も廃れる一方じゃわだ」
私は幽霊を見たことがない。またそのような能力もない。しかし、私の周りには何人か見たと言う人がいる。