一方、紀香は尾藤の部屋で質問をしてみた。
「少しお話聞かせてください」
「どうぞ」
「あなたの学歴と職歴、家庭環境を教えていただいていいですか?」
「うーん、学校はさー、小学校は出たけど、中学はほとんど行ってねえよ。職歴ってったってさ、正社員は一度もやったことねえんだよ。芸能界入りでもしようと思ったけど、あんなの、二世タレントや金持ちが役取れるってもんだろ? 俺みたいに、家庭環境がちゃんとしてねえとさ、オーディションすら受けさせてもらえねえんだよ」
「不良の役とかでも駄目だったんですか?」
「俺さ、万引きやったり女襲ったりさ、ろくなことしてねえから信用されてねえんだよ」
「そうですか。ところで、塾に行ったことはありますか?」
「……ああ、すぐやめたけどな。塾生って言うのかわかんねえようなどうしようもねえやつらが集まって、ペン習字習ったり、本読まされたり、金の計算もさせられたよ」
「お金の計算?」
「そう。札束数えさせられたんだ」
「それって、オレオレ詐欺とかに関わってるんじゃないですか?」
「多分な。もう、ぶっちゃけちゃうけどな、オレオレ詐欺や振り込め詐欺ってのは物凄い収入なんだよ」
「いくらくらいですか?」
「そうだなあ、受け子でも月に一億なんてやつがいてさ、そういうやつが出世して箱長になってさ、それが更にオーナーになって、他にも新会社を作るんだってさ」
「そのオレオレ詐欺の受け子から出世したって言う人が、あなたたちにまた別の受け子をやらせたってわけですね」
「受け子? 昨日じっくり考えたんだけどよ、その会社、オレオレ詐欺のレベルの会社じゃねえんだよ!」
「じゃあ、どんなレベルなんですか?」
「俺が思うには……誰かに頼まれて、社長が、社員や塾生を騙してみんなで殺す、共同作業の殺人会社だよ!」
「えっ? どういうことですか?」
「はっきりとはわかんねえけどさ、誰かが人を殺してほしいって頼み込んで、それを受け子みてえなやつが殺して、犯人を偽装するために、俺らみたいな塾生に何かさせてよ、俺らのやったことを犯人の証拠につなげてたんじゃねえかと思うんだよ」
「そんなことしても捕まるでしょ? 捕まったら元も子もないじゃないですか?」
「俺らの世界じゃあ、今更堅気になんてなれねえんだよ」
「それで、その依頼人はどうやってその会社を知ったんですか?」
「それがわかんねえんだよ」
紀香は何度考えてもそれだけはわからなかった。