【前回の記事を読む】【小説】二つの殺人事件の容疑者達にあった、意外な共通点は…
携帯エアリー
省吾と紀香はその日、省吾の部屋でマテウスと尾藤についてお互い話した。そして、二人でエアリーの説明書を読み直し、まだドッグの存在を試していないことで、少しでもこの事件に結びつける方法はないかと考えた。
「ビニール袋の中にエアリーを入れて、巻き戻しして、事件の犯行時刻の会話とか、犯人の考えていることとか出て来ないかしらね」
「ああ、やってみるか」
そして、エアリーをビニール袋に入れ、巻き戻しボタンを押して心の声を聞いてみた。なかなかそれらしい文字は出て来なかったが、何度もやってみた。
《私がやったなんて誰も気づかないわ。第一、動機がないじゃない!》
「出た出た!」
「やったー! これで、この犯人の空気をドッグに探してもらえばいいのよね」
「ありがとう、紀香! 君のおかげだよ」
「まだやってみないとわからないわ」
そして、二人してドッグに部品をセットして空に放った。
エアリーとパソコンの画面にドッグの動きが見えた。
「止まったところが犯人の今いる場所か居住地ね」
「そうだな」
二人はドキドキしながらも、画面から目を離さなかった。
「止まった!」
「点滅してるよ! 住所も出て来た」
「凄い! このアパートね」
「紀香も一緒に行こう。ドッグはエアリーを持ってけばそこに戻ってくるからな」
「わかったわ」
そして、その女のアパートに辿り着いた。しかし、エアリーは充電切れだった。
「今晩は。警察の者ですが」
「何でしょうか?」
「最近この辺りで女性が殺されたんです。何軒も聞き込みをしているのですが、手掛かりがつかめなくて……。それで霊感の強い刑事がいましてね、意外に当たるんです。その刑事が言うには、犯行現場に猫の毛があったから、猫を飼っている人が犯人の可能性が強いそうなんです」
「はっ? 何言ってるんですか? 今ちょっと忙しいので……」
「ごめんなさい。私も猫を飼っているんですが、キャットフードの臭いがしたんで」
「飼ってませんよ」
「そうですか? 僕も、先ほど猫の鳴き声がこの部屋の中からした気がしたんですが」
「飼ってません。あの、もしかして私を疑っているんですか?」
「何とも言えませんが、中を見させていただいていいですか?」
「ちょっと、なんで私が殺さなきゃいけないんですか?」
「ミュ~!」
「ああ、やっぱり、猫ちゃんですか? ……飼っている猫ちゃんの毛と犯行現場にあった毛を照らし合わせて調べれば、あなたの潔白が証明されますよ」
「ちょっとやめてください!」
女の声を聞いて驚いたのか、奥から猫がゆっくりと歩み寄ってきた。
――間違いない! この女が犯人だ!