女の名前は沼田今日子。三十九歳、独身女性だ。
そして、女は慌てふためいて、猫を見ながら語りだした。
「あ、あ、あの、犯行現場の猫の毛はこの猫の毛かもしれませんが、私はハメられたんです。えっと、レストランに勤めていた時に、お客さんに誘われて、いい仕事を紹介してくれるからって、行ってみたら、普通の団地に黒いカーテンがかかっていて、音が漏れないように完全防備で……」
「それで?」
「その会社に勤めたら、荷物受け取るだけの仕事ですが、お給料が凄かったんです」
「いくら位なんですか?」
「一回三十万とかです」
「へぇーー、それで、その荷物って中身は何なんですか?」
「ダンボールに果物の詰め合わせが入ってて、その割に重いから何かと思ったら、果物と一緒にお金が入っていたようだったんです」
「オレオレ詐欺ですか?」
「そうだと思います。それで、そこを辞めようと思って、そのレストランの客に言ったんです『辞めたい』って。そうしたら、『もっといい仕事があるから』って言うからそこへ行ったら、また似たようなアパートに黒いカーテンして、今度は『もうすでに死んでいる死体があるから、その人が自殺に見えるように首をロープで吊ってほしい』って言うんです。もちろん何度も断りましたよ。でも、結局断りきれなくて……。だから、私が首を縄にくぐらせて縛りつけた時にはもうすでに死んでたってわけです。私じゃないです! それに、殺人の容疑者は別の人になるように証拠も用意してあるって話だったんです!」
「誰がですか?」
「そのレストランの客です!」
「その人の名前は?」
「三船健一。多分偽名です」
「写真はありますか?」
「ありません」
「じゃあ、そのアパートを教えてください」
「そこへ行っても、もうそこには誰もいないと思います」
結局沼田は任意で署まで連行された。しかし、猫の毛は現場には最初からなかった。