「わしは、この学校を開校するにあたって医師会長時代に大変な苦労をしたんだ。まず、医師会員に賛成してもらわなければならない。三年課程定時制のメリットを何度も説明したもんだよ。午前中に看護助手として病院や診療所で働き、午後は学校へ行く。三年生からは週二日、四年生からは週三日の実習があることも理解してもらった。国田は今までは全日制の学校で働いてきたが、今度からは定時制ということをよく理解してほしい。現在、全学生が市内と近隣の医療機関で働いていることも理解し、学生を助けてやってくれよ」

村山は一方的にしゃべった。

「はい、そのようにしますが、学生の一カ月の給料はいくらぐらいですか?」

国田は学生の生活状態を知る必要があると思った。

無床(むしょう)診療所、(ゆう)(しょう)診療所、病院の三つの場合がある。どこに所属するかによって給料も異なるが、わしのところでは、無床診療所なので午前中のみ働き、一カ月七万円かな。部屋代と一日三食の食事代は格安料金で一万五千円引いているので、五万円ぐらい残るはずだ。それから授業料一万二千円が必要で本人には四万円ほど残るでしょうな。有床診療所や病院で勤務する学生は無床診療所で勤務する学生の二倍ぐらいの収入を得ていると思うよ。夜勤があるようだ」

「学生なら小遣いがその程度あれば十分ですね」

村山と国田はビールを数本飲んで徐々に気分が良くなり、饒舌になった。

「所属医療機関の求人申込みについて、今年の新入生四十人に対し、市内は三十五人しかなかったので、近隣の医療機関にお願いして全員を医療機関に所属することができたよ。来年三月中旬には第四期生の所属の割振りをしなければならないが、国田にすべてを任すから、久船副学校長と相談しながら上手にやってくれよな。もし、久船が難色を示したり、自分の思い通りにならない時はすぐにわしに言いなさい。何とかしてやるから、まず、一期生の全員を看護師国家試験に合格させてやってくれよ。また、予算のことも心配しないで良いよ」

村山は予算のことを国田に喋ってしまってから、看護専門学校運営資金が約三千万円あるので、当分の間は大丈夫と踏んでいた。

国田は頷いて、

「二年後の第一期生は全員を看護師国家試験に合格するように頑張りますので、よろしくお願いします」

「ところで、国田は大阪に十数年以上住んでいたのに、大阪弁が出ないなぁー。大阪弁が嫌いなのか」

「いいえ、私は岡山県育ちで、十八歳までこちらにいたので帰郷するとすぐに地方の言葉になるのですよ」

「そうだなぁ、広島県の備後(びんご)、岡山県の備中(びっちゅう)備前(びぜん)はみな同じ方言だからな。いっそのこと廃藩置県の時に備州県にしておけばよかったのにと、わしは思っている。広島県の備後と安芸の国とは言葉も風習も少し異なっているからねー。国田は大阪弁を使っていいよ、その方が新風を吹き込んで良いかもしれんよ。ワッハッハー」