恵比寿顔の男と一緒に車を降り、入り口からいくつものセキュリティチェックを通り、壁も床も白一色の病棟のような場所に辿り着いた。
廊下を進み、ある一室の前で恵比寿顔がドアの横に取り付けられている操作盤のキーを叩くと、扉がスライドして開いた。恵比寿顔は部屋の中に入って行く。恭子も男に続いた。
部屋の中も白一色だった。天井に照明が付いていないのに、部屋の中は明るい。壁自体が発光しているようだ。中央には白い台があった。白い布に包まれたモノが乗っているので、ベッドだろうか。手術台のようにも見える。恵比寿顔はそこに近づいて行く。
恭子も後に続き台の傍らに並んで立つと、恵比寿顔はおもむろに台の上の白いシーツをめくり上げた。台の上には白い服を着た大男が横たわっていた。恭子は思わず身体を硬直させ、驚きの声を上げるのをかろうじて堪えた。
男は両手両足を台に拘束された状態で目を閉じている。首が太く、頭髪は無い。身体が服の上から見ても大きかった。半袖から覗く腕は太く、入れ墨があった。気配に気付いた男が目を覚まし、二人を見た。恭子の顔を見つめると、にやりと笑った。
「よう、あんたかい? 俺を楽に死なせてくれるっていうのは」
恭子は男の言葉が理解出来なかった。
「彼は死刑囚です。彼は既に絞首刑で死んだ事になっています。何をしようと自由です。この男も全て承知しています」
「私に……何をさせようと……」
恭子は恵比寿顔の方を振り向き、恐る恐る尋ねた。
「訓練です」
恵比寿顔は答えた。
「人体からの生命の吸収という能力を、自在にコントロール出来るようになって貰います」
恭子は改めて横たわる死刑囚の方を見た。コントロールの訓練ってこういう事? 訓練って、いきなり生きている「人」を使ってするの?
「私に、この人の命を吸い取れって言うの?」
「そうです。いや、全て吸い取って命を奪えというのではありません。力をコントロールして、生命を吸い取る能力を制御するのです」
恵比寿顔の冷静な口調に、恭子はかえって狼狽えた。
「い……嫌です」
能力を制御する自信が無い。
「コントロール出来なければ、一生貴女は誰にも触れられませんよ? 何かのはずみで、何の罪も無い人の命を奪う事になっても良いのですか?」
恭子は葛藤した。力を人に使うのは暴力行為に等しい行為だ。
だが……、私はこの力をなんとしても制御出来なければいけない。それに相手は動けない。危険と思ったら手を離せばいい。
暫く悩んだ末、ゆっくりと手から手袋を外した。