【前回の記事を読む】「君子は労せず」と「貴族の責務」相容れぬ英中、中立の日本

北方的スケールの故宮

北京二日目の昼食は都心部の豪華な王府飯店の宮廷料理だった。しかし如何せん、西安のギョウザが祟ってきて、折角の凝りにこったご馳走でも、全く食欲が出ないのは残念だった。

午後は故宮見学であった。この季節の北京らしくない曇天。コースは午門から北へ九〇〇メートルの神武門までの徒歩である。

明、清の祟城であり五百年にわたり紫禁城として中華の勢威を誇ってきた宮城である。絢爛多彩な柱や壁、更に特徴的な屋根の反り、花頭窓や円窓。更に満州人らしい、はっきりした特徴としては、左右対称の徹底。

これは建物の配置、中庭、道路で、空間の合理性を生かし、日本の建物や町とまさに対照的であり、次に敷地全体の構想から出発して細部に至る計画概念で、これも日本には見られない。つまり日本人や漢族の自然に溶け込もうという思想と正反対で、いわば満州族が北方的スケールで威圧させるプランである。御花園だけは自然な庭だが、ここは中国人の好む太湖石をしつらえてある。

現地ガイド嬢に声をかけてくる男性が多い。「随分もてますね」と言ったら、顔を赤らめて「皆初めて見る人ばかりですのよ」と弁解したが、若い男性の開放的気分と女性の純情さを感じた。このつつましやかさは、私には好感がもててホッとする。