ベルリン、ミュンヘンを往く

郷愁をさそうポツダム

ポツダム市中で他の人々と別れたあと、タクシーで森の中のポツダム天体物理研究所まで行き(一〇マルク)、門衛に胸パッジをもらい、キャンパスを歩くこと十分くらいで、すりばち状の凹地に建つ白い塔に達した。

これこそ一九二一年に表現派の巨匠メンデルゾーンによって建てられたナメクジのようなユーモラスな形で、実際にアインシュタインにより相対性理論の実験が行われたアインシュタイン塔である。

ユダヤ人の建てたこの塔がナチの時代をくぐりぬけて、よくぞ無事に存在したと感銘したが、この塔は現代建築に非常に影響を与え、例えば戦後日本ではアニメ「宇宙戦艦ヤマト」はとても、よく似ていると思う。

帰りはポツダム・シュタット駅まで三十分歩いた。市内を昔懐かしい市電(トラム)が縦横に走って市民の足になっているのが、いかにも東独の遅れを物語っているようだが、私には夢の中で子供の頃を歩いているようで気分が良かった。

ところが、現実にひき戻されたのが鉄道陸橋のとっつきで一台のトラバント(東独製の小型車)のボンネットから急に煙が立ち上ったことである。運転の若者がフロントを開けてのぞいている。周りの車からも助っ人がかけつけていたが、私たちにはどうにもできず、この二気筒空冷式のチャチな車の椿事を見つめるだけだった。

今の日本では考えられぬ珍風景。悪いけれどこれも懐かしかった。ここから東欧にかけて、郷愁さそうような景色が想像され旅心をそそられる。駅からベルリン中央のZoo駅まで直通(三・二マルク)のディーゼル車(S3、S7)が開通しているのは意外で、助かった。ガイドブックだと、数回乗り換えを覚悟していたからで、これも最近の東西融合の成果であろう。