【前回の記事を読む】ビーカー内で食料を延々と再生産!? 宇宙で使えるハイパー技術

乙姫のバーチャルシステム

織田の研究に生命体の保全環境研究というのがある。彼が若いときに執筆した学術論文である。彼は会社経営をしながらも、「人体の免疫力」について研究も続けていた。

社内には細菌研究の研究室が設置されており、彼の研究室でのウイルス研究は世界的にも高く評価されて、毎年流行するインフルエンザやウイルス性の感染症から、食品の発酵と食文化、そして最近ではプラスチックを分解する細菌の研究にも取り組んでいた。

閉鎖された居住空間の生命維持環境のために、灼熱の砂漠や南極の極寒の中で実験が行なわれ、生命が自然循環して生き残れるには、どのような生命維持機能が必要かなどのデータを取っていた。温度調整、湿度調整、空気の成分、細菌や微生物の管理など、コンピューターとロボットで何か月もの間、生命が生存できる環境維持方法を作り上げていった。

織田が作った会社は環境維持整備のロボットの制作も担った。この会社は織田の研究から生まれた細菌駆除の技術で成功を収めてきたのであるが、織田が社長を退任してからは次の世代を担う商品開発に不安を抱いていた。

そんな折、織田から、地上ではない宇宙船内の環境整備ロボと掃除ロボの依頼が来た。自社の技術をもってすればさほど難しいロボットではない。宇宙工学の若手の研究員も加わって製作を進めていた。織田が作り上げた研究所とORITA財団が育成した若手研究者によって宇宙船建造ロボットや、生命再生装置、居住空間の環境維持装置などを製作することとなったのである。

人間にとって環境維持と健康管理は車の両輪である。宇宙船の中にある居住空間の円周距離は直径900メートルなので、直径×3・1415直径900メートル×3・1415=2・827メートルとなる。内側の壁をぐるっと歩くと3キロメートル弱なのでランニングや散歩にはほどよい距離である。