【前回の記事を読む】【時代小説】座礁した異国船への偵察中、思わず感嘆したワケ

異国船の調査

異国船には大砲が船腹に三十二門、船首と船尾に四門ずつ、計四十門あり、すべて車付きの頑丈な台に乗せられ、移動可能になっていた。なかには車が壊れて台座がひしゃがっているのもあったが、残りは厳重に固定されていた。

緒方は砲身を覗きこんで、和製の青銅製大筒と違い、鉄製で筒内に螺旋が切ってあるのを確かめた。撃ってみないとわからないが、正確に標的が狙えて、破壊力がありそうである。緒方は大砲を一通り見終わると、甲板に戻って萱野軍平に直接報告した。

「大砲は使えそうです。この船が大砲を積んでいるという噂が広がらないようにするためにも、早く下ろしたほうが良いでしょう。ただ、下ろすのが大変そうですが」

そう萱野軍平にすばやく報告をすると、また船内に戻っていった。

傍らにいた梶山外記は、自分をないがしろにする緒方にむかっ腹をたてたが、何をすればいいのか頭になにも浮かばなかったから、指示を出すこともできず、することがなかった。ただ、序列を軽んじる年下の萱野軍平を白目で見て、虚空を睨んだ。

萱野は周りを見回し、「船に運び入れたのだから、下ろすこともできるはずだ」と、帆柱から垂れ下がっている滑車のついた綱を眺めながら、大砲の威力を知るために、ここから一番近い疾の番所に大砲を運びこみ試し打ちをしたいと、気持ちは逸るばかりだった。

だが、そこでは試し打ちの話は口にしなかった。梶山外記がいたからである。梶山外記は耳から入ったことを止めることを知らない口の軽い男だったのだ。

若宮伸吾は昨日の時点で萱野の意向がわかっていたから、万事心得て、大砲を運ぶ手配をするために船を降りていき、緒方三郎から大砲を下ろすための工夫を聞いた。まず、上甲板をはがし、それで台船と筏をつくる。ガンデッキの大砲は、船尾近くの船腹に穴をあけ、そこから台船に移して疾の番所まで運ぼうというのだ。

しかしながら、それだと全部を運び出すのに時間が掛かりそうだった。萱野はなんとか一門だけでも早く下ろして、試し打ちをしたかった。それで、若宮伸吾は船に着いている滑車を集め、上甲板に櫓をくんで、船尾楼にある大砲を滑車で水面まで下ろし、二艘の舟に板を渡して組んだ筏に積んだ。

大砲を吊り下げて、船から下ろすのも一苦労だったが、大砲を疾の番所に運ぶのも大変だった。大砲を運ぶ筏は頑丈でなければいけないし、運ぶ途中、海に落としてしまったのでは、目も当てられない。それでも、なんとか、最初の一台を疾の番所まで運んだ。

坊の入り江は風が吹くと、すぐに波が立つ海の難所で、海が荒れると作業ができなくなる。全部の大砲を疾の番所まで運ぶのはかなり骨が折れるのにもかかわらず、噂を立てられないようにと期限を半月と区切られてしまった。期限を過ぎれば船を燃やすというのだ。