第二章 恭子

ふと、この優しい祖母が、一度だけ激高(げっこう)した事を思い出した。

あれは恭子が幼稚園の頃だった。

祖母と公園に行き、偶然幼稚園の友達と会った。恭子はその友達と砂場で遊ぶ事にした。

祖母は仲良く遊ぶ孫達の姿を、公園のベンチに座って眺めていた。

恭子達は、砂場でおままごとをしていた。

そこへ、同じくらいの年頃の男の子達がやってきた。

男の子達は、その砂場に基地を作るから「どけ」と言った。

恭子は、私たちが遊んでるんだから向こうへ行って、と答えた。

男の子達はその言葉を無視し、執拗(しつよう)に砂場を譲るように(すご)んだ。結局口論となり、男の子の一人が恭子の友達を砂場に突き倒した。

なにするのよ! と叫ぶ恭子にも男の子の手が伸びた。

恭子は反射的に手を伸ばし、お互いの両手を掴み額を押し合う様な格好で力比べになった。

お互いの力は拮抗した。

恭子は怒りで血が脳へ逆流するのが判った。

こんな奴、死ねばいい。

そう思った瞬間だった。

「おやめ!!」

大人の手が、恭子の腕を掴んだ。

それ(・・)をしちゃあ、いかん!!」

その怒声に驚き、恭子は声の主を見た。

それは祖母だった。

これまでに見た事の無い鬼の様な形相。

眼をカッと見開き、唇を震わせている。

呼吸も荒い。

男の子達は、その気迫に押され、その場を去って行った。

恭子は祖母を見続けていた。

祖母の唇は(わず)かに開き、何かを言いたげだった。