翌日から、遮那王は正近から学んだことの反復と、更なる上を目指し一人見えぬ仮想天狗を相手に修行に励んだ。弁慶は時に現れ、世の流れを遮那王の耳に入れ、稽古の相手にもなった。弁慶はある日若者を一人伴ってきた。
「これなるは、私の父湛増の傍で修験道の行に入ろうとした者ですが、得意の弓を活かせる武者になりたいと私の元へ参りました。遮那王様が鞍馬をお出になる時お連れ下さればお役に立つと思います」
「湛増様に一時仕えておりました、鈴木三郎重家と申します。是非お傍に置いてください」
「弓が堪能とな。弓は武者のたしなみ、教えてくれるか」
「はい、喜んで」
「弁慶。良き者を連れて来てくれた。だが、此処には置けぬが」
「修験の行も積んでおりますれば世渡りは得意です。連絡手段を決めて下されば、必要な時に現れますのでお構いなく」
「では頼むぞ」
遮那王の修行に弓道が加わった。小柄で華奢な遮那王にとって弓は後々まで苦手であったが、何とか形になったのは重家の存在が大きかった。