「それからお兄ちゃん。大学に行ってないの。あたしを大学に行かせるために自分が働くって言って高校も中退しちゃって……。だから、できなかった青春を少しでも経験して欲しくて、こうしたイベントを定期的に開催してるの。あたしが誘わないと自分からは何もしないタイプだからさ」
夏菜子さんは私の方に体を向けると肩を軽く叩いた。
「とにかく、里奈ちゃん! お兄ちゃんをよろしくお願いします。めちゃくちゃ良い兄貴だから。今みたいに幸せそうな姿を見るのは初めてなの。里奈ちゃんのおかげだよ」
頭を下げる夏菜子さんに「私こそよろしくお願いします」と頭を下げ返す。
とても兄想いで優しい人だ。私は喧嘩別れした兄のことを思い出したが、この兄妹の前で自分の話はできないでいた。
「肉が焼けたぞー」
向こうでは男性陣が暑い中、私たちのためにお肉を焼いてくれていた。
「ありがとうー」
夏菜子さんがテントから飛び出した。私もお礼を言いながら立ち上がり、ご馳走をいただきにテントから出た。今まで知ることのできなかった祐介の新しい一面を聞けて、満足げににっこりと笑みを浮かべていると「そんなに肉が食べたかったのか」とお皿いっぱいに焼きたてのお肉を取ってくれた。トングを片手に額の汗を腕で拭き取る姿すらも輝かしく見えた。
何もかもが愛おしい。私はこの人の彼女なのだと誇らしく思う。炎天下の中のバーベキューはこの夏一番の思い出となった。