【前回の記事を読む】「お父さんの代わりに愛してね。」人生を変えてくれた恋人へ…
第二章
日が暮れてきて、昼から出掛けていた私は少し早めに帰ることにした。祐介が家の近くまで送ってくれる。祐介の家と私の家はそれほど離れていなかったので自転車に乗って十五分くらいで到着した。祐介が自転車を漕いで私は荷台に乗る。祐介の背中は大きかった。何か話しているようだったが、風の音が邪魔をして聞き取れなかった。私の家に到着した時には辺りは暗くなっていた。
「乗せてくれてありがとう。重かったでしょ」
「彼女くらい乗せられないでどうすんの。余計な心配だよ」
祐介の手が私の頭にぽんっと乗る。痛くもないのに少し目を閉じて「いててっ」と言った。今日も一日幸せをありがとうと心の中で感謝してから、頭に乗った彼の手を下ろして、両手で包むように優しく握った。また明日も会えるというのに別れが名残惜しい。家に戻ると母が夕飯の準備をして待っている。
「ただいま」
「おかえり、ご飯できたよ」
手を洗って食卓に着く。今夜はビーフシチューと、サラダはスーパーのお惣菜を二品買ってお皿に盛りつけ直している。
「お母さん、私、彼氏ができた」
ビーフシチューをスプーンで口に運びながらぶっきらぼうに打ち明けた。
「そうだったのね。気づいていたよ。だってあんたがこそこそしとるけん怪しかったもん」
「こそこそなんてしてないよ、普通」
母が勘づいていても知らないふりをしてくれていることに、私は気づいていた。秘密にしたいわけじゃなく、単に恋人がいるということが照れ臭くて言えなかっただけだ。隠し事をしない性格の私のことだから、いずれは母にも言うつもりでいたが二か月ほどかかってしまった。
打ち明けた後の母は、祐介がどんな人なのか、どこの誰かなど、気になっていたことが多かったようで質問責めに合ってしまった。こんなことならもっと早く打ち明けていればよかったなと、楽しそうな母をみて思う。