蒸し暑い日照りの下、私と祐介は夏菜子さんが彼氏と同棲しているマンションの屋上でバーベキューをしていた。夏菜子さんの彼氏は光太郎さんといってマンションのオーナーの息子だった。その都合でマンションの屋上を特別に使用できている。

光太郎さんは焼けた肌に白いTシャツ、短パンにサンダルだった。服の上から分かるほど鍛え上げられた筋肉が浮き出ていた。垂れ目でくりくりした目が印象的な好青年だ。夏菜子さんとは大学のサークルで出会ったらしい。

「夏菜子さんさすがだね。玉の輿だ」

祐介の耳の横で意地悪な表情で冗談を言う。小声で言ったつもりが光太郎さんにも聞こえていた。嫌な顔ひとつ見せずに爽やかな笑顔で笑ってくれる。額には汗がびっしょりと浮かんでいたけど、いかにも高級そうな分厚い牛肉をレア焼きにするために集中していた。

「性格も良いし。完璧だ」

祐介に「まだ言うか」と怒られたが祐介も夏菜子さんも、光太郎さんまで笑ってくれたので問題ない。

男性陣がお肉を焼いてくれている間、私と夏菜子さんはキャンプ用テントの下で日陰を作り、椅子を並べて涼んでいた。

「お兄ちゃんが彼女の話をしたの初めてなんだよ」

「そうなんですね」

「あたしが反抗期で大変だったし、今まで彼女いたかも怪しいけど」

大きな氷が入ったグラスに注がれているコーラを飲み干した。私もつられて一気飲みする。

「うちね、お父さんが家を出ていったの。あたしが一歳でお兄ちゃんが三歳の時かな。小さくて覚えてないんだけど、暴力が酷かったみたい。お父さんがいなくなった後、俺がお母さんと夏菜子を守るんだって小さいながらに言っていたらしい。これお母さんに聞いたの。秘密ね」

「お父さんの事、何も知らないって言っていたので聞いてないことにしておきます」

「あたしが中学生くらいの時、何でうちにはお父さんがいないんだって家を飛び出したことがあって。コンビニで時間潰してすぐ家に帰ったんだけど、お兄ちゃんは知らずにずっと探し回って、自転車でそこら中。あんまり帰ってこないからそっちの方が心配になって警察呼んだんだからね」

声は笑っていたが夏菜子さんの目は潤んでいたように見えた。だが真夏の汗で見分けがつかなかった。