【前回の記事を読む】「何もかもが愛おしい」彼の新たな一面を知った、真夏のBBQ
第二章
残暑も過ぎて夜になると窓を開けて寝られるほど涼しくなってきた。祐介とは相変わらず毎日会っていた。変わることなく同じだけの愛情を注いでくれる祐介に対して、私にできることは何でもしていた。料理が得意な祐介に習って、定番のメニューは何でも作れるようになった。
母にも味わって貰いたくて、疲れて仕事から帰ってくる母を、夕飯と一緒に待った。初めて祐介も家に招いた。
三人で食事をするのは少し緊張する。祐介も母も気を遣い合って疲れてしまわないか心配で、私が間を取り持たないといけないと思うと前夜は眠れなかった。
二人にはお互いに良い印象でいて欲しい、大好きな二人には仲良くなって欲しいと思うのは私の勝手な願望だ。
「美味しい! これ二人で作ったの?」
「コーンポタージュと野菜で作ったスープとポテトサラダの二品は私で、こっちの卵ふわっふわのデミグラスオムライスは祐介だよ」
「うん、卵ふわふわで美味しい。デミグラスソースも手作り?」
「本当に簡単なメニューですけどね」照れ臭そうに視線を落とす祐介。
「祐介何でも作れるんだよ」
「母が忙しくて妹もいましたので、僕が父親代わりだったんです」
「そうなの。里奈はわがままだから大変でしょう」
「もう!」
「そんなことないです。優しくてしっかりしてて、可愛らしいですよ」
「そんなこと言われて良かったわね」
母は笑っているが私は少しむくれた。無言でオムライスをいっぱいに頬張っていると右隣に座っている祐介の左手が私の右太腿の上をさする。こういった些細な仕草にも私は癒される。顔を向けると祐介が小さく吹き出しそうになった。
「可愛い」
そういって私の顎に垂れ流れているデミグラスソースを拭き取ってくれた。母は「お行儀がいいんだから」と呆れ顔だ。
この家で明るい食卓を囲んだのはいつ以来だろうか。父が家を出て、次に兄が出て行ってから平和は訪れていたけれど、母と前のように仲良くできないでいた。
どこかで父への怒りを母のせいにして発散していたし、基本は部屋に籠って携帯の中の世界で暮らしていたからだ。
しかし、祐介と付き合ってから私は居場所を手に入れた。甘えられて頼れるそんな存在でいてくれて精神も安定し、寂しくもなくなった。その余裕から母にも優しくできるようになり、こうして三人で顔を合わせられたことも、私の中では大きく前に進めた証拠だ。以来、週に数回は祐介を自宅に招いて三人で食事をするようになった。