第一章

平成四年十一月十七日十二時半、九州の田舎にある一家、内田家に第二子として女の子が産まれた。その子は里奈と名付けられた。里奈は、色が白くお餅のようにまんまるとした顔に、むちむちとした腕や脚、ほっぺからこぼれ落ちそうな笑顔がとても可愛らしい赤ん坊だった。

母親は、それはとても嬉しそうに産まれたばかりの里奈に微笑みかけ、優しく抱きかかえていた。

「産まれて来てくれてありがとう」

大きくなった私は兄の翔太郎とその友人たちと、一緒になって遊ぶのが大好きだった。小学生の頃は夏休みに兄と二人で、当時流行っていたカードゲームで毎日のように対戦していた。父の勝と母の洋子はたまに口喧嘩をすることはあったが、休みが取れると家族四人で壱岐対馬に温泉旅行に行くなど、家族の仲は良い方だった。

両親は共稼ぎで働いていたため、仕事が休みの日は母が一週間分の食料の買い出しと日頃疎かになっていた家事をこなしていた。しっかりした兄に比べて、自由奔放な私は手がかかったらしいが母の愛情を真っ直ぐに求め、甘えん坊な姿に母は愛おしく思っていたそうだ。

兄が高学年になると今までのように私と遊ぶことはなく、私は祖父と幼馴染みの真紀子ちゃんの三人でかくれんぼやままごとをするようになった。祖父はいつも座りながら腕を組んで寝ていることがほとんどだ。

「かくれんぼしよう!」

「じいちゃんは寝とくばい」

「足元に隠れるけん動かんでね」

「はいよ」

百姓焼けした真っ黒でシミだらけの祖父は「じいちゃんは里奈の子分や」と目尻いっぱいにシワを寄せてどこに遊びに行ってもついて来てくれた。