【前回の記事を読む】2人の秘密のテレパシーは、まだか弱く脆いけど確かにあるんだ
KANAU―叶う―
日向からメッセージが届いている。メッセージごときに、こんなに反応してしまうのかと望風自身も驚いた。心に蓋をしようとしていたが、待っていたんだと思う。震える指を落ちつけようと、歯を食いしばってみる。タップしてみた。日向:こんにちは 日向です
日向:急にごめん 放課後時間あるかな YOUR HEARTにいるから
よかったら
無理しなくていいよ
日向:傘のお礼もまだだしね
望風の全身が一気に火照りだす。高揚に興奮も重なって、動揺をおさえようと深呼吸した。ふーっと息をはきだして、スマホを両手で胸に当てた。過呼吸になりそうだ。行くよね? 行った方がいいよね? 何を話すの? あー緊張する! どうしよう……完全にパニック状態だ。でも返信しなきゃ……。ひらきなおったように、
望風:お疲れ様です 望風です
望風:まだいらっしゃいますか?
望風:二十分くらいかかっちゃいます
すぐに既読がついた。
日向:急がなくて大丈夫だから
日向:迎えに行くよ
望風の心は打ち抜かれた。武士にも大地にも優理にも友達にも女友達にも誰に言われても少しも動じないたった一言と、日向に言われた一言が、こんなに違うなんて。動き出しているなにかの気持ちに向き合うのは、まだ少しこわかった。もう頭ではわかっているけれど、今はまだ、自分に対して気づかないふりをした。認めてしまえばどうなるか、覚悟してから自分と向き合おう、そう咄嗟に思った。
望風:大丈夫です!
望風:急いでいきます!
日向:奏多があるよね、途中に
日向:そこで待ってるよ
日向:気を付けて
望風は、有頂天のまま、トイレに向かった。鏡の中の自分は、少し困ったような顔をしている。ベビーピンクのリップを塗って、髪の毛をとかした。でも、会いたかった。その気持ちが勝る。
奏多につくと、日向は見つけやすい場所に座っていた。海に沿って並ぶコンクリートの階段に、青っぽいスーツに、白のワイシャツ、黒系のネクタイをした、短い髪の男性がいて、近づくにつれて日向だと確信し、手にはアイスコーヒーを持っていることもわかった。晴れた日の夕暮れの風の穏やかな時間が、日向を一段と大人に見せた。望風は、胸がきゅんとした。今まで好きになった人には感じたことのない新鮮な感じだった。痛くて苦しいけど、病みつきになりそうなときめきだった。
そのときめきを感じながら立ち止まってしまっていた望風に、日向が気づき、視線が合うと、二人はまた見つめあっていた。二人にしかわからない感覚だった。お互いその目と目をずっと合わせていたいように、長く見つめあった。望風は、目がとろんと溶けてしまいそうになって、ゆっくり瞬きをした。