KANAU―叶う―

真っ赤に燃え盛る巨大な夕日に、罪はない。見下された海面でちっぽけな鷲が、はばたく。水しぶきがスポットライトで輝く。華麗なダンスでもがく姿は人間と同じだ。 

少女の髪が、儚く揺れる。その髪が、風をまとって翼になった。ふわりと、その首筋を泳いだ。夕日はそっと、彼女の肩に手をまわす。彼女の細い肩を勇気づけた。おぼろげで幼くつぶらな瞳と華奢な脚が、青い制服とブラウンのローファーを躍らせていた。

彼女は、穏やかな波の向こうに沈む夕日を横目に、小幅でゆっくりと歩いていた。何かを願い、何かを知ろうとしていた。その何かはきっと叶い、目に見えるものとして存在すると信じながら歩いている。信じながら生きている。途中で、大きめの流木に腰かけ、普段より長く、遠くを見た。夕日と海と空が彼女の背中を押す。彼女は無垢なまま立ち上がり、スタートラインに立つように、また歩き出す。 

PM11:30。無数の透明な紙ひこうきがそれぞれに夜の中を飛行している。星空が真下に降りてきたみたいにロマンチック。言葉は邪魔だ。

望風(もか)は、ベッドでうつぶせになり、(ゆう)()との会話をチャットアプリを使って楽しんでいた。二人は、ほぼ毎日チャットする。朝も昼も夜も。学校への通学、下校もタイミングさえ合えば共にしている。優理は、望風の男友達の中で一番心許せる、カッコよくて優しくて、離れたくない大切な、友である。

望風の部屋は、十畳ほどの広さで、高さ二mほどあるスライド三枚分の大きめの窓が特徴的だ。窓の外には二畳分ほどのベランダがあって、夜になるとそこにライトとチェアーを持ち出して、詩を書いたり、情報収集したりしている。

望風の部屋には、もう一箇所窓がある。天井際の中央に、光が差し込む小窓が二枚並んでいる。大きさで言うと、エアコン二台分くらい。朝はその日の空模様が、夜は、星空が見える。毎晩ベッドに入って、しばらくその小窓からの景色を見ながら、色んなことを考えたり思い出したり想像したりチャットしたり。その日課が、望風の活力となっていた。 

望風:おやすみー

   もーねるー

   今夜は星がきれい★

優理:寝るのかよー 俺はヤバいテスト

   おやすみー

望風:w ふぁいとー

   朝きてくれる?

優理:はいよー

楽しさを積み重ねると、元気が出る。お互いの寂しさを慰め合って、ひとりじゃないという現実を楽しむ。とても有意義な事だ。悲しみも寂しさも過去の産物となる日が来る。望風は、優理と接していると、子宮の奥の方から何かが突き上げられるような、いやらしくも、汚くも、可愛い色気を出せる。その色気を今日も楽しんだ。もっと甘え上手になりたいと思っていた。