【前回の記事を読む】想い人からの突然の連絡に…「運命だと思い込み、勝負にでた」
KANAU―叶う―
翌日、大地とれんは、グラウンドで待ち合わせた。ライブの後、連絡をとって、一緒にゆきだるまを見に行こうという約束をした。その日は快晴で、ゆきだるまは溶けてしまっているだろうと、大地は待ち合わせ時間より少し早めに行ってみた。溶けていたら、れんの私物を集めておいてあげようと思ったのだ。だが、ゆきだるまは跡形もなかった。
誰もいないグラウンドはまるで、二人だけの舞台として用意されているかのようだった。
物語が動き出す。
「大地くん!」
遠くから声が聞こえた。甘くてかわいい子犬のような声だった。れんが大地の方へ向かって走ってくる。その姿を見て大地は、早々と絶対に彼女にしたいと思った。れんは、とびきりの笑顔で、
「ごめん! 早かったね。待った?」
と大地に言う。大地は背が高いので、女の子を見下ろすことが多いが、れんは大地にとってちょうどいい角度で見下ろせた。ブーツと白のダウンジャケットに白のニット帽、色白の透き通るような肌が、太陽の下できらきらしている。綺麗だ。抱き寄せたい衝動を、理性でなんとか押さえ込んだ。
「ゆきだるまなくなっちゃったねー」
か細い声でれんが言った。残念そうな表情が大地の目に焼き付いた。可愛い。大地の傘を、れんが持っていた。れんが、
「ゆきだるまと一緒に撮りたかったのになー」
大地は、
「ありがとう傘」
と言って、傘を受け取った。
「帽子はね? 少しよごれてたから、クリーニングにだしてきちゃった」
「すみません……」
大地は言葉とは裏腹に、嬉しそうにそう言った。咄嗟にまた会えることを喜んだ。
「ありがとう。ゆきだるま……傘までかけてくれて。なんだか、私が守られてるみたいで嬉しかった」
れんからのストレートな言葉に、大地は少し動揺したが、なんだか自信のようなものが湧いた。明るくて素直な性格みたいだなと、れんに対する好感が増した。まだいつもの調子のいい大地ではない。
「ゆきだるま、もうないけど、一緒に撮らない? 記念に」
大地は快諾した。二人で数シーン撮った。広いグラウンドの真ん中で。まだ緊張感のある距離感だったが、寄り添えたのが嬉しかった。