【前回の記事を読む】「え?え?嘘だろ…」恋焦がれている相手の衝撃映像に絶句
KANAU―叶う―
その年のクリスマスイヴは、一面銀世界となった。小雪の降る中、大地は、歩いていつも集まる友人宅へ向かっていた。その途中、いつもの公園に立ち寄った。一回り、銀世界を楽しんで、遠回りして歩こうと思ったのだ。グラウンドの前を歩く。
髪の長い女性が、多分れんが、立っていたあのグラウンド。グラウンドも一面、真っ白だった。中央のあたりに、何かあることに気づいた。期待したが人ではなさそうだ。目を凝らしてみると、雪だるまのようだ。大地は近寄ってみた。やっぱり雪だるまだ。大地のひざくらいまでの高さで、目はボタン、口はリップスティック、手は、左に青、右にピンクのカラーペンがさしてあった。マフラーがわりに、赤いタオルがまいてある。
大地は思わず微笑んだ。女の子が作ったんだろうなと、スマホでぱしゃり。大地は、かぶっていたキャップを脱いで、雪だるまにかぶせた。
「にあうじゃねーかー」
大地は、そう笑ってもう一度、スマホでぱしゃり。SNSに投稿した。持っていた傘を雪だるまに立てかけ、友人宅へ向かった。みんなでお菓子やらケーキやらピザやら、買い出しして諸々楽しんだ。翌日のクリスマスも、小雪舞い散る寒空だった。大地は、昨日の雪だるまが気になっていた。
「飯食ったら行ってみよー」
大地は、180センチほどの長身で、小顔で顔立ちもよく、いわゆるイケメンだ。ファッションにも興味があるので、出かけるときはモデルのような出で立ちになる。黒のひざ下丈のロングコートをはおって、革のブーツをはいた。
「さみー」
マフラーに顔をうずめて、コートのポケットに手をいれ、足早に歩いた。グラウンドが見えてきた。中央付近に雪だるまが見える。
「いたいた。かわいこちゃん」
大地は、ナンパでもしに行くように浮かれていた。傘に雪が積もっていた。大地はその雪を振り落として、また雪だるまが降り積もる雪で太らないように、傘を立てかけてあげた。
「ん?」
大地は、昨日の雪だるまの画像を見返した。もう一度、目の前の雪だるまに目をやる。雪だるまの手は、木の枝に替わっていて、先端には手袋をはめていた。真っ白な毛糸の手袋だった。大地は、
「誰だよ」
と言って笑った。SNSにアップした。真っ白な毛糸の手袋が可愛くて、なんだか愛おしさが増したような気がした。大地は自分の手袋と交換してあげたかったけれど、返す宛もないのでやめておいた。しばらく大地は、刑事が犯人の心情を探るかのように、ある想像をした。何かひらめいたように、表情の動きが止まった。
「まさ……かな……。またな」
雪だるまに、そう話しかけて、大地は「NOW AND THEN」へギターを鳴らしに向かった。着くと、ブルグミュラーの「素直な心」が聞こえた。望風が来てんのか……。望風はこの曲が好きで、よく弾いている。
大地はスマホのカメラを起動させて、動画を撮影しながら、二階への階段をのぼる。手にはおもちゃのゴキブリを持っている。大地は、いたずら顔でそっと望風に近づく。望風の後ろ姿がれんと重なって、望風の奏でる音色が、なんだか胸にささって、いたずらするのはやめた。大地はそのまま撮影だけ続けた。聴きながら思った。れんに会いたいと。