【前回の記事を読む】【時代小説】座礁したのは海賊船。嵐に襲われた乗組員たちは…
異国船難破
三
次の日、嵐がうそのように収まり、陽が昇る頃、友左衛門は数人の村人と舟を出して異国船内を調べた。
船底は座礁したところに穴があいて、そこから浸水していた。いくつもある船室には何人もの死体があった。全身を打撲した後、浸水した水におぼれたようである。
生存者がいないことを確かめてから、友左衛門は蕪木郡の代官所に異国船が座礁していると使いを出した。だが、代官の階太夫郎は不在だった。
その日は、昨日の嵐とは打って変わって、朝から春いっぱいの陽ざしがさし、うららかな陽気になった。階はそれに誘われたように思いついて、春先になるといつも起こる水争いの様子を見に遠出していたのだ。山に降った雪の量が少ないときは、百姓たちが田んぼの水の取り合いで諍いをする。
それを調整するためというのは口実で、実は女を物色するのが目的だった。階は無類の女好きで、それも未通女が好みである。その日はなにやかやとあって不首尾に終わった。代官が見回りに来ると知ると、若い女たちは、皆、山に逃げたのだ。
階が代官所に九つ(お昼)頃帰って来ると、吹からの使いが待っていた。話を聞いて、階は使いの者に案内させて、疾川沿いを上流に向かい、滝壺の手前で馬を降りて徒歩で三の窪に出た。
坊の入り江は昨日とうって変わって波もなく穏やかである。しかし、その真んなかに見たこともない異国の帆船が座礁しているのが見えた。
階は吹の村長の友左衛門に舟を出させた。座礁している異国船は、近づくと見上げるような大きさである。全長は三十間、幅は十間もあろうか、そのうえ、三十間以上ある帆柱がねじ折れているのだ。
さらに近づくと、喫水から一間ほどの高さの舷側に四角の穴が一列に切ってあるのが見え、それらは蓋がしてあったが、なかに外れたのがあり、そこから大砲の砲身が見えた。
数えると片方の舷側だけで十六門ある。船尾から反対側にも回った。そちらは折れたマストがたれさがって、良くは見えないが、そちらにも十六門。その他にもありそうで、相当な数の大砲で武装していることがわかった。
階は友左衛門から異国船が座礁した後、幾人もの乗組員が海に飛び込み、岸に向かって泳いできたが一人も助からなかったと聞いた。また、今朝、船内に入って調べたところ生存者はいなかったという。階はそれを聞いて面倒なことは避けられたとほっとした。