ラグビーW杯2019は多様な人種の選手たちを高い次元で統合した南アフリカの優勝で閉幕した

決勝にふさわしい質の高い試合で、南アフリカが見事な勝利を収めた。点差こそ開いたが、実力は拮抗していた。一番感銘を受けたのは、南アフリカが展開ラグビーでイングランドに対抗したことだ。戦前の予想では、南アフリカはフィジカルを前面に押し出すと見られていた。

しかし、蓋を開けてみると彼らは積極的に回してきた。スクラムハーフはハイパントを控え、バックスに次々にボールを供給した。そこにはオールブラックスを破ったイングランドへの警戒と対抗があった。

ハイパントを上げてフォワードがなだれ込む「アップ・アンド・アンダー」戦法は、キックの精度が高くなく相手に容易に捕球されると、かえって逆襲を受けピンチを招く。オールブラックス戦で見せたイングランドの自陣からの展開は見事で、南アフリカは戦法を転換したのだと思う。

強いフィジカルが喧伝されるが、実は南アフリカのハーフ団は極めて優秀である。スクラムハーフは的確な判断で最善の攻撃方法を選ぶし、素早い動きと鋭い読みで相手の攻撃の芽をつぶす。スタンドオフは正確なキックでペナルティゴールを重ねるだけでなく、華麗なステップを踏みディフェンス網を突破していく。

勝負の興味を削いだのは、前半早々にイングランドの右プロップが負傷退場を余儀なくされたことだ。南アフリカの突進を止めようと密集に絡んだ時に、相手選手が振り抜いた肘が頭部を直撃したのだ。メディカルチェックを受けた結果、プレー続行は不可能と診断された。

急遽出場した選手は、代表歴90試合以上を誇るベテランだったので、パワーでは劣るかもしれないがテクニックは上だろうと逆に期待した。しかし、実際はパワー・テクニック共に不十分で、スクラムを安定させることができなかった。南アフリカの強力フォワードに徹底的に狙われ、ことごとく押し込まれ、めくられた。

フォワード第一列がこういう状態では、スクラムは計算できない。結果的に南アフリカがスクラムで終始優勢に立ち、これが「フィジカルを前面に押し出した南アフリカ」という印象を与える結果となった。

当初のゲームプランを変更し、伝統的な肉弾戦に回帰することも可能だった。しかし南アフリカは偉かった。準決勝のウェールズ戦のように、ひたすら縦を突くことはせず、優位に立ったフォワードを盾にして、自在にバックスに展開する戦法を選んだ。

イングランドは常に密集で後手に回るため、フランカーを起点とした攻撃的なディフェンスができない。南アフリカのハーフ団は余裕を持ってハイパントを上げ、空いたスペースにキックパスを転がした。これが2人の快速ウイングのトライを呼んだ。全員がゲームプランを共有していたから取れたトライだと言える。

実は、南アフリカは、過去2回の決勝ではトライを取れていない。そう考えると、如何に優位に立って試合を進められたかが分かる。