仕事、その本当の厳しさを知ろう
昨今、好景気ははるか過去の言葉となり、中小はもとより、大企業の製造業や商社、大手の金融機関に至るまで、各企業が生き残りをかけて熾烈な競争を続けている。しかし、それにもかかわらず、業績不振にさいなまれているところが多いようである。
世間一般には見えないところで、各企業の人件費の削減についても厳しさが増す一方で、働きたくても働く先のない人々が、生活の不安を抱えながら、どうしたらよいのかわからない状況で苦しんでいる。
その中で、埼玉県のみでなく、各都道府県の中学生たちが、職業体験活動の試みを行っている。私の勤務した学校でも、三日間、二学年の生徒たちが毎年、職業体験活動を行っていた。その受け入れ先になってくれた各事業所の方々の温かいお気持ちには、心から頭が下がる。本当に感謝にたえない。
昨年度、職業体験を行った生徒の感想に耳を傾けてみると、「仕事をする」ということが、いかに大変なことか、改めて心に刻んだ生徒も多かったようである。この体験学習の試みは、個々の生徒たちにとってとても有益だとは思うのだが、生徒たちが「職業に就く」ということの本当の厳しさを理解できたかどうかは、いささか疑問である。
以前、校外研修会において、K市のY百貨店の取締役総務部長さんのお話を伺ったことがある。Y百貨店の三か月間の新人研修の内、最初の一週間は、接客用語の発声練習のみに費やされるということだった。
「いらっしゃいませ」「かしこまりました」「おそれいります」「お待たせいたしました」「ありがとうございました」「またお越しください」それらの用語をただ叫ぶのではなく、「いらっしゃいませ」は、遠くに響かせるように語尾を長く、「ありがとうございました」は、床に響くような感覚で……と声が涸れるまで続けるのだそうだ。
その次の一週間は接客の態度、特に、お辞儀の仕方のみを徹底的に練習させられる。非常に高い競争率を越えて入社したにもかかわらず、指導者役の管理職の厳しい態度に、泣き出す社員も多く、その場で入社をあきらめてしまう気の短い若者もいるということだった。