第一のゆりかご──感覚による情報の収集作業
感覚について考えてみようと思います。感覚には、体性感覚、これには皮膚など表在性の感覚と、深部感覚といって関節などからの位置覚、振動覚などがあり、また視覚、聴覚、嗅覚、味覚、内臓感覚などがあります。
ここでは皮膚の体性感覚、視覚、聴覚についてお話ししようと思います。
皮膚の体性感覚
まず皮膚の体性感覚(触覚)について取り上げたいと思います。その理由は、リベットによって、皮膚の体性感覚と意識との関係が、詳細に調べられているからです。
リベットは、ある皮膚の領域に相当する、脳の一次体性感覚皮質の表面に電極を設置し、脳皮質を直接的に電気刺激することによって、誘発される感覚を調べる実験、その脳皮質に相当する皮膚の領域に電気刺激を与えることによって、脳で生じる電位変化と皮膚での感覚意識との関係を調べる実験、また、皮膚と脳皮質との間の感覚上行路である内側毛帯を刺激する場合に誘発される感覚、そしてそれらの感覚の相互の比較などの実験を行いました。
まず脳の体性感覚皮質を、反復的な短いパルス電流で刺激したところ、その刺激パルスが、500ミリ秒間継続されると、皮膚感覚の意識経験を引き出せる「さわった」という感覚が生じるということがわかりました(この脳への刺激の継続が、500ミリ秒に満たないと、基本的に感覚意識は生じないとのことですが、刺激強度を上げることによって、500ミリ秒以下(未満)でも感覚意識を引き出すことができるとのことです)。
この感覚は決して脳に生じるのではなく、それに相当する皮膚の領域に生じます。
これによって、皮膚の感覚意識が生じるためには、最大約500ミリ秒間の脳の活性化が必要であることがわかりましたので、「皮膚への刺激においても(この時間的制約)が当てはまるのならば、意識を伴った皮膚感覚が現れるために、皮膚への、単発(1回)の有効な刺激パルスによって、皮膚感覚が生じるために必要な十分な長さの(500ミリ秒間続く)脳の活性化が生じているのか」ということが次の論点となりました。
そこで、皮膚に単発の有効な刺激を与え、大脳皮質での電気反応を調べました。すると、刺激を受けた皮膚領域に相当する、大脳の感覚皮質の特定の小さな領域で、まずはじめに初期誘発電位が局所的に発生しました。
この初期誘発電位(初期evoked potential、以下、初期EPと略します)は、頭(頭皮)からのような距離の短い経路の場合、14~20ミリ秒くらいで、足(の皮膚)からの長い経路では40~50ミリ秒くらいで、皮膚刺激のあと大脳皮質に生じます。
ちなみに、大脳皮質の下に位置する感覚上行路である内側毛帯を刺激しても、この初期EPは生じます。しかし、大脳の感覚皮質への直接の電気刺激では、この初期EPに相当する反応は生じません。
リベットによると、この初期EPは、感覚意識を引き出すための必要条件でも十分条件でもないとのことで、つまりこの初期EPは、何の感覚意識も引き起こさないということです。したがって、脳でのこの初期EPのあとで生じる反応が、皮膚の感覚意識を生み出すのに必要らしいということになるわけです。