「どうしたの?」と先生がやってきた。
こうちゃんが「ゆうなちゃんがね、さやちゃんにいじわるしてないちゃった」と言った。
「いじわるなんてしてないから!」とわたしはまたおこって言った。
その声にびっくりしてさやちゃんはもっとないてしまった。
「さやちゃん。どうしたの?」と先生がやさしく話しかけていた。
こうちゃんが「あのね、ゆうなちゃんがねっ……」と言いかけたら先生はちょっと顔をこわくして「さやちゃんに聞いているの! こうちゃんはさやちゃんじゃないでしょう?」と言ったので、こうちゃんは少ししょんぼりしてだまってしまった。
さやちゃんはなみだが止まらず、息をするのも苦しそうになっている。言おうとしてもしゃべれないみたいだ。
「さやちゃんはお話するのはむりかなぁ?」と先生が言った。
そして「ゆうなちゃん、お話できる?」とわたしに聞いてきた。
「……うん」とわたしは小さな声で答えた。
こうちゃんも、男の子たちも、女の子たちもみんな、わたしのことを見ている。「さやちゃんをなかしたのはゆうなちゃんでしょ?」って言いそうな顔で見ている。
わたしはなみだが出そうになるのを顔に力をいっぱい入れてがまんして話し始めた。
「あのね、わたしとさやちゃんとしおりちゃんとみいちゃんで、プリンセスのドレスの話をしていたの。そしたらね、さやちゃんがお母さんの……」と言ったら、またなみだが出そうになってきたので、もう一度顔に力を入れた!
「さやちゃんが、お母さんのけっこんしきのドレスの話をして……」
「うんうん」
先生がやさしく聞いてくれていたので、顔に力入れなくてもだいじょうぶになった。
「そしてね、お母さんはママのママだから、さやちゃんが生まれる前じゃなくて、ママが生まれる前でしょ?って言ったの。そしたら……」
「そしたら?」
先生がやさしく聞いてきたので、なみだがまた出そうになってきた。
なみだが出る前に言わなくちゃ!って思って、ちょっぴり早口で「そしたら、さやちゃんが『ママ』と『お母さん』は同じ人だよって言うから、『ちがうよ! お母さんはママのママだから!』ってちょっとこわく言ったら泣いちゃったの……」と言い終わったら、なみだが止まらなくなっちゃった。
先生はわたしをぎゅっとハグしてくれたので、なみだが止まらなくなった。先生は一つの手でさやちゃんの手をにぎって、もう一つの手でわたしをぎゅっとしてくれている。わたしもさやちゃんもいっぱいないて、すこーし落ち着いてきたところで、先生が言った。
「ゆうなちゃんは『お母さん』は『ママのママ』だよ。って、さやちゃんに教えてあげたかったのね。」と。
わたしは小さな声で「……うん」と答えた。
「そして、さやちゃんは『お母さん』と『ママ』は同じだよ。って教えたかったのね」と先生が言うと、さやちゃんも小さな声で「うん」と答えた。
「そっか! 2人ともやさしいね! ちがってるって思ったことを教えてあげるのはやさしいってことだよ。だけどね、ゆうなちゃん、これはさやちゃんの言ってることが当たりなんだよ」と先生はニコニコしながら言った。
「ゆうなちゃんにとって、お母さんはママなのよ。ママのママはおばあちゃんって言うのが本当なんだよ」
(えっ! うそ! わたしがちがっていたの? ママが言ってたのはうそだったの? どうして? どうして?)わたしは心の中で言っていた。