御不動さんの祈祷
正月に帰省して母と姪の話を聞き、私も御不動さんの所へ連れて行ってくれるよう母に頼み案内してもらった。初めて行ったときの印象は、世捨て人とは此の人たちのことではないかと思った。
険しい山に住み、狭い敷地に質素な家、とまや、とはこんな家のことではないのかと思った。部屋の中に招き入れられると、一間と物置と洗い場だけである。部屋の奥面は岩が剥き出しで、岩肌に無理やり家をくっつけたとしか思えない。
私の心中を察したのか、「この崖は南向きで日当たりが良く風も当たらない、◯◯様、神霊の名前を言われたが失念してしまった、◯◯様が此処でやれと言うから此処でこぅゆうことをやっとるんでよ」と、夫人が説明してくれた。
部屋の中には不釣り合いな大きさの欅で彫られた虎と人形などが沢山並べられており、右奥に祭壇が設けられている。しばし、世間話のあと、私の祈祷が始まった。夫人が祭壇に正座し、数珠を鳴らし、神様、仏様のみ名を沢山のりあげ、昭和何年何とし生まれの男性の方のお頼みでございます。と言い、しばらくお経をあげていた。その日はなにごともなく終わり、私に最後に帰るよう言われたので二組の人が帰ったあと帰路についた。
大阪から四国には度々は行けないので、日にちは暫く空いているが三回目のとき変わったことが起こった。夫人が祭壇で数珠を鳴らし、神仏のみ名のりあげ、何年何とし生まれの男性の方のお頼みでございます。と言い、お経をあげていると夫人の様子が変わった。変な咳をし、しきりに腰をさすっている。
脇に控えていた夫が、「おまはんは何処の誰でよ、此処に来て隠し通すことなどできんぞよ、今まで散々此の人を苦しめて来たんだろ、誰にもわからんと思うても見るところからは見とるぞよ」
祈祷している夫人に思惑を持つ人の日頃の癖が出て隠れた人を探し出すらしい。脇の夫が何回か問いかけるが答えはない。
私と並んで座っていた母が、「おまはん、南のおさやんでないでか、其の咳、腰のさすり方そのままでよ」
夫人の動きが止まり沈黙している。
「何でおまはんが息子に悪さする、わかるように説明してくれんでか」
夫人が、うーーーと唸り口をきった。
「ばれてしもうたらしゃあない」
話の内容は一つ一つ納得のいくもので、今は町会議員をしているが、やがては県会、国会議員にと思っている。其の為には私に長女の婿になり、養子となって家を守れと思うが父に借金があり言いだせない。山に住んでいる人は平地に土地がほしいと思っている。従兄のおさむさんが平地の田一反買ったとき父が全額貸して買わせたらしい。返済がとどこおっているらしい。