ヘレンキムゼーの夢
前夜はまたホーフブロイへ行って、今度は中庭でマスの姿焼きをさかなに一杯やった。二人で六〇マルクだったがドイツ最後の夜を楽しんだ。最終日早朝、七時五十二分プリーンへ向けて列車に乗った(往復三八マルク)。キーム湖の中の島にあるルートヴィヒ二世(以下ル王とよぶ)の未完成の宮殿・ヘレンキムゼーの見物である。
ザルツブルク行きの国際列車は保線状況もよく猛烈なスピードで八時五十四分プリーンに着いた。ここから玩具のような汽車と連絡船で小一時間、島へ上陸。森の中を随分気をもたせてやっと宮殿が見えホッとする。
ここはベルサイユを意識していて庭園の噴水、グランカナルとそっくりだが、違うのはその先の借景がキーム湖でヨットが見えることだ。室内の四マルクで英語ガイドつき入場料はグループとはいえ安い。八室ほど見たが絢爛豪華。離れ島にこんな大宮殿とは、やはりル王は狂っていたか。
しかし鏡の間はベルサイユより大きく、全くのバロックでなくロココもアールヌーボーも取り入れてあるのは、イミテーションというのとは少し違う。ル王はこの他にもノイシュバンシュタイン城をはじめ、幾つかの城を国家財政を傾けて造ったが、現在は何の抵抗もなく観光できる。