山と湖水の街道
ガルミッシュというと作曲家リヒャルト・シュトラウスが山荘を構え、風刺的童話作家ミヒャエル・エンデが生まれた所というので、期待して来てみたら、ただの登山基地に過ぎなかった。そのかわり南方にそびえ立つドイツ最高峰ツーク・シュピッツェ(2962メートル)の威容は圧倒的である。頂上付近は峨々たる鋭鋒だが、植生が見られず岩石が奇怪なくらい白っぽい。
この日は山頂へ登ることにした。空は雲一つなく晴れ渡り大変暑いが、ヨーロッパらしくカラッとした空気だ。この日ほど冷夏の日本を脱出してきて良かったと思った時はない。
登山電車とロープウェイの乗り継ぎで(往復六九マルク)、電車はアプト式なのが珍しい。向かいの席に日本の青年が座った。すぐ北のムルナウに単身で住み、ゲーテ独語学校で学んでいるそうだ。最近の日本の政治情勢と中欧の歴史に興味を持っているという。今後こういう若者はますます増えてくるだろうと想像される。
山頂に到着し展望台に出ると、予想以上に素晴らしい眺めだ。ここは独墺国境だが、遠望するとスイス、イタリアの山並も見わたせる。さすが、ここはドイツ・アルプスの主峰という感慨がわく。
帰りのロープウェーから見下ろすと、きれいな森に囲まれたエメラルド色の小さな湖がある。これはアイプ湖といい、人工の感じがして、これこそミュンヘンの隠し水源だなと察した。岸へ着いたら早速観光モーターボートに乗って40分の周遊をした。
湖の中央まで進むと小島が点々とありいずれも人が水着姿で憩っていたが、その一つに近づくと、それまで韻をふんだドイツ語で気分よさそうにガイドしていた操縦士のじいさんが奇声を発した。完全なヌーディストたちがいて長い髪の一人の若い女性が、こちらを向いて歓声をあげた。その裸体はとても自然で健康的であった。
しかし、ドイツ人女性らしくなくラテン系だろう。白昼堂々と陽光のもとの解放感は、まさにギリシャ・ローマ文明ならではで、「秘すれば花」の日本女性には真似して欲しくない。写真? 撮れるわけないでしょう。