この最初の異動先で唯一いい思い出として残っているのは、ある先輩が連れていってくれたマンダリンバーです。マンダリンオリエンタル東京のホテル内にあるバーです。
この先輩、親分肌で後輩の面倒をよく見てくれました。一次会が終わると、「飲み直そーぜ」と言って後輩複数人をマンダリンバーに連れていってくれたのです。支店にいた時もホテルのバーに連れていってもらったことがありますので、大人っぽい雰囲気がバーにあるのは承知していましたが、このバーの雰囲気は別格でした。先輩が「オレはここで嫁を口説き落とした」と紹介してくれたのですが、納得しました。
先輩が話す新人の頃の話も学ぶことがありました。「ある時大失敗してさ、先輩をすげー怒らせてしまったわけ。電卓が飛んできたんだけど、思わずよけちゃってさ、壁に当たってぶっ壊れたんだよ。オレはすぐさまぶっ壊れた電卓を抱えてダッシュで秋葉原まで行ってさ、新しい電卓を先輩に差し出したの。『お前、根性ある!』って認めてもらえて、それで今こうしてトレーダーやれてるわけ」
そんな先輩の昔話を聞いて「先輩、かっこいい!」と思い始めた矢先、「一人一杯までな」と言われガッカリしました。
でも、メニューを見ると確かに高いし、五~六人いましたので、全額負担する先輩を尊敬する眼差しは変わりませんでした。パワハラで銀行を辞めようかと落ち込んでいた当時の私は、この先輩に何度救われたかわかりません。「自分も後輩を持つようになったら、こういう人になりたいな」そう思える数少ない銀行員でした。