銀行カルチャー

希望に胸を膨らませて転職する手続を進めると、人事部から独身寮に入ることを勧められました。

「自宅から出社できるのに、なんで?」

と不思議でしたが、入社早々逆らうのもどうかと思い、素直に従いました。すると、先輩社員達から、この寮では新人芸の披露会や寮祭があり、参加は必須である旨伝えられました。

「何この体育会系のノリ? コンサルと似ていると思ったけど雰囲気が大分違うな。大体必須ってどういうこと? 選べないとか、銀行って窮屈だな」

と早々に思いました。新人芸は一人で行う必要はなかったので、同じタイミングで転職した同期と一緒に「人間ウォシュレット」を実施。ご想像にお任せしますが、下品なことならラグビーで慣れっこですので、大いに場を盛り上げました。

「火の鳥」や「ピッコロ」なんていうのもありました。上半身裸にネクタイを締め、両手両足を鳥のようにバッサバッサさせながら、ネクタイを燃やすのが「火の鳥」。マジ危ないです。

全身裸で緑色に塗りたくり、急所だけ隠すため内股になりながらノロノロ登場し、白目を剥きながら「ん、んっー」と苦しそうに口の中からビリヤードの緑色の球を吐き出すのが「ピッコロ」でした。

「うわっ、きったねー」と思いつつ爆笑しました。もちろん、漫画『ドラゴンボール』のピッコロを再現したわけです。どれだけバカになれるかが勝負でした。

こういうの、今の学生にどう映るのでしょうか。多分受け入れてもらえないでしょう。殆どの人は嫌がると思うのです。当時だってそうでした。

寮祭も銀行っぽいです。今はもうないと思いますが、私の時はクラブを借りきってバカ騒ぎすることでした。参加条件は同じ支店にいる同期の女の子を連れて来ること。そんなに親しいわけでもないのに、

「お願い! 週末付き合ってちょーだい。仕事で困ったら何でも助けてあげるから」

とか言って無理やり誘うのです。本当は、仕事で助けてあげる側は事務処理をする女子行員であり、男性行員が助けてあげられることなんて殆どないのです。

しかし当時はノルマを達成するため必死でした。銀行で、男女を問わず同期を意識させられるのは寮祭に限りませんでした。異動にともなう歓送迎会で、二次会にいく前に必ず先輩から言われます。

「あのさ、同期の女の子来るように誘ってね。上司が喜ぶし、お前の腕の見せどころ」

完全にパワハラ、セクハラです。コンサルではありえない世界です。でも、毎年のように年末になると通達が発信されるのです。

「忘年会、新年会で酒席が増えるにつれて、セクハラ・パワハラの事例が増えています。皆さん、気を付けましょう」

って。通達を読み終えて現場にいた頃を思い出し、

「そりゃー減らないよなー」

と思うのです。