サン・ジェルマン・デ・プレ秋灯
頼んだのはフィッシュスープ。私はお魚のスープという名前から、ご飯代わりになるかと思っていた。
魚の切り身などが入っている具たくさんのスープ(以前、インドネシアのバリ島で経験した)を想像しながらオーダーしたのだが、出てきたスープはとろりとして、それはすばらしいスープだった。お魚の骨を粉にしたようなカルシウム感まで味わえる初めての味だった。また、新しいものを知ってしまった。
こんな不思議の国に入ってしまった私は、現実を離れ、人魚姫さながらパリの海に漂う。彼はこれから私とどこへ行くつもりなのか。どこかで食事をするつもりなのか。だとしたら開いている店はあるのか。何もわからないまま私はせっせと折り紙を続ける。でも、不安じゃない。怖くもなかった。午後十一時を回った。もう、閉店の準備だ。客は一組、食後の時間を楽しんでいる。
「もう時間?」と男性客の問いかけに「まだ、いいよ」と返事をしている。あ、彼が食事を摂り始めた。ピザを食べている。じゃあ、ゴハンに行くことはしないな。
すると彼がピザの一切れを私に運んできて語りかけ、食べろという仕草をする。そのときはわからなかったけれど「ボナペティ(食べて)」と言ったのかもしれない。私は、お礼を言ってピザを口に入れる。きっとおいしいのだろうけれど、はっきり言って味はあまり覚えていない。やっぱり緊張していたのだろうか。ス・ソワール(今夜)が近づいていたのだから。