初めてのラブレター
ある日、目覚めて思う。彼は私を嫌いじゃない。
―カレハワタシヲキライジャナイ―
なぜだろう、神が降りてきたみたいに不思議と私の心は強くなった。そうして私は心を込めて彼に手紙を書くことを決意した。英和辞書を片手に自分の文章を自分で綴る。人生において、生まれて初めての英語のラブレター。はっきり書かなきゃ伝わらないので、ここは日本の恋文と違って情緒に頼ってはいられない。
『あなたがもし、パリかランスに好きな人がいるなら、私はあなたをトラブルに巻き込みたくない。そしてパリへは行かず、遠い日本の空から海を越えてあなたを愛している。でも、そうでないなら、この手紙を読んだら、すぐに私に連絡をしてほしい』
名前を教えてもらってきたので、今度は宛名を書くことができた。郵便事情が日本と違うのはよくわかっている。この手紙も彼の手元に届くかどうかわからない。今は十一月下旬、家の近くのポストではなく街で一番大きい郵便局から出した。気休めとはわかっていたが、何かをせずにはいられなかった。そして郵便局から出したものの、届かなかったら……との心配が、私に二通目のクリスマスカードをしたためさせた。それは十二月十日だったが、郵便局の窓口で、半分断られる。
「クリスマスカードは八日で締め切りました。フランス国内だけでもクリスマスの頃には郵便物がかなり多くなるので、着くかどうかわかりませんよ。クリスマスや年内はまず無理でしょうね」
「年を越してもいいからとにかく届いてくれればいいのよ」
私はなかば訴えるように意思を伝える。
「届くには届くと思いますが、あとは相手国の郵便事情なので……」
その郵便局員は口ごもりながらクリスマスに届かないクリスマスカードに意味はあるのかと言いたげだったが、しぶしぶ受理してくれた。私はやるだけのことはやって、さっぱりした気持ちだった。
彼から連絡は来ないかもしれない。来るなら、パリで電話をくれただろう。そう考えるのが当たり前だった。出した手紙に返事が来ない恋も若い時に経験していたから、さほど苦しい思いはしないで済んだ。