歯の治療にみるドイツ人の実力

この後、前述のブランデンブルク門へ行き、次いで昼食後Zooのヨーロッパセンターにある日航へ行き、リコンファームを済ましてから、歯科医の紹介を頼んだ。

フロントは皆ドイツ人女性だったが、親切にフランクフルトの支店まで問い合わせてくれて、走り書きの紹介状と共に電話もかけてくれた。紹介先までタクシー( 一五マルク) で行くと、そこはFREIE UNIVERSITÄT BERLIN POLIKLINIKEN FUER ZAHN等と書いてある。つまり有名なベルリン自由大学の歯科であった。

中に入ると、用件はもう通じてあったが、一人の看護師がとんできて申し訳なさそうに言うには、担当のザウアー教授が明後日しか来ない、その朝七時半に来てくれ、治療は教授が一番良いとのことで、予約して帰ることにしたが、待たせなかったことが印象が良かった。

その日の夕方ホテルへ一旦帰ってからベルリンの銀座にあたる繫華街クーダムへ行った。緑の多い実に清潔な通りである。柔らかなピザで夕食を済ませた。

翌日はポツダム・ツアーを終えて、夕食は和食にしようとヨーロッパセンター内にあるK醬油経営の鉄板焼きのDという著名な所へ行ったが、ここの一人五一マルクの食事は外国人向きで不味かったので念のため。

第三日朝、早速病院へ行ったら、トルコ人らしい女性が掃除などしていたが、直ぐ診察室に通してくれて、温顔の教授が姿を現した。二つに割れた義歯を見て、十二時に来なさい。直っていますとのこと。安心して退去した。

この後、文化広場へ行き、アメリカへ亡命していた世界的建築家ミース・ファン・デル・ローエの帰国作、国立近代美術館を見た。凄いスパンの長さと広い平面に成るほどと感心。絵画もなかなか良いものが多かった。隣の工芸美術博物館もゆっくり見たが意外に良かった。

十二時に病院に行った。長い廊下を通り治療室に通されたら、そこには教授と、単身でここに勤めている大阪出身の吉田君という若い日本人の助手がいた。吉田君の通訳ではめ合わせもうまくいき、一つの義歯としてピッタリ収まった。ザウアー教授は一週間は保証します。帰ったら歯医者さんへ行ってくださいとのことだったが、帰国してからもベンツ車のようにビクともしない。

別れ際に握手をしてくれた教授の温容、吉田君の笑顔が忘れられない。ドイツ医学に肌で触れた貴重な体験だった。治療費は七〇マルクで保険なしにしては破格に安かった。

この日の夕食はカント通りにあるYという和食料理屋で天ぷら定食。ここはSビールの経営。四五マルクで、昨日より余程ましだった。