投与中止後4~5半減期後に薬効がなくならない例
一、スタチン系薬剤
脂質異常症の薬で主に血中のコレステロール値を下げる薬です。プラバスタチンなど現在6種類の成分が臨床で利用されています。
主な作用は、肝臓にあるコレステロール合成酵素の一つHMG-CoA還元酵素を阻害してコレステロールを作れなくする作用ですが、機序はさらに続き、肝臓内で不足し始めたコレステロールを補給しようとして肝臓はLDL受容体の合成を促進させて血管と接する肝臓表面に移動させます。
すると血液中にあるコレステロールを含むLDL(低比重リポタンパク質)がLDL受容体に結合して、そのまま肝臓内へ取り込まれます。LDLに含まれるコレステロールは肝臓内で受容体から離されて利用され、残ったLDL受容体は再び肝臓表面へ移動して血液中のコレステロールを捕捉します。
いったんできたLDL受容体はその寿命が尽きるまでコレステロールを血中から肝臓へ引き込む結果、血中コレステロール値が低下します。例えばプラバスタチン(半減期:2.6時間)を服用している人が服用を中止したとき、血中のプラバスタチンは4.5半減期後の12時間後にはなくなってしまいますが、既に作られたLDL受容体がしばらく生き残りますので薬効は持続します。
この性質を利用して1日おきの投与も見られますが、患者さんによっては「飲み方が複雑になった」と言って薬の飲み忘れにつながる場合も出てきます。
二、カルベジロール
交感神経系β1受容体の遮断薬で高血圧などへの適応症を持っています。この薬の半減期は10mg服用時は3.6時間、20mg服用時は7.8時間です。そして1日1回の投与で安定した血圧低下作用を示します。先ほどの定常状態のあるなし式で計算しますと
10mg服用時:24÷3.6=6.7(>4) ⇒定常状態はなし
20mg服用時:24÷7.8=3.1 ⇒定常状態の有無は微妙
次の投与までにかなり血中濃度が下がるのに、なぜ一日中安定した降圧効果を示すかが不思議になりますが、これはカルベジロール本体の脂溶性の高さにあります。
血中に入ったカルベジロールはその脂溶性の高さから、すぐに細胞膜の脂質二重膜に埋め込まれます。血中から早々に姿を消しても、細胞膜に埋め込まれたカルベジロールが持続的に同じ細胞膜上にあるβ1受容体を阻害するために降圧効果が持続するといわれています。
これらの他にも半減期の短い一部の糖尿病治療薬は受容体との結合が強いため血中濃度が低くても効果が残り、低血糖になりやすいなど、例外を挙げ始めると切りがないかもしれません。