児童相談所、保育園で社会と人間を見続けて五〇年
すばらしい社会福祉理論に出会うことができた幸運
私のキャリアは児童相談所:八年四か月、保育園:四三年七か月、合わせて五一年一一か月ですが、およそ「五〇年」とさせていただきました。保育の現場で四〇年以上生きてきて、いま感じていることは、いろいろと問題があるが“保育園はおもしろい”ということです。
長い時間をかけて職員と信頼関係を築いて、子どもたちと保護者をしっかりと見つめて保育に取り組んできて思うことは、“保育はおもしろい、保育園はおもしろい”ということです。
私は、「福祉」の道に進みたいと思って入った大学では、なかなか満足できる福祉理論に出会うことができませんでした。自分自身の問題も大きな問題としてありましたが、理論的にどうしても満足できなかったのです。
しかし、大学三年になったときに岡村重夫先生の社会福祉理論に出会うことができたのでした。それも、単位取得とは関係のない「聴講」というかたちで一年間、そして「必修」として一年間、岡村先生から直接講義を聴くことができたのは、まったく幸運なことでした。
先生の理論は、哲学・社会倫理学の素養を背景に持つ社会福祉の対象は、人間の社会関係の主体的側面にほかならないという明解な理論でした。現在の日本社会にあっても、さん然と輝いている理論だと思います。
前職の先輩で同僚であった松本英孝さん(公立新見女子短期大学教授)の『主体性の社会福祉論‐岡村社会福祉学入門』(法政出版)もあります。
この岡村理論に加えて、社会福祉援助技術としての「ケースワーク」をアメリカでの豊富な実践経験をふまえて、日本社会での実践経験を理論化された杉本照子先生(大阪市立大学医学部非常勤講師。関西学院大学社会学部非常勤講師。『医療におけるケースワークの実際』〈医学書院〉の著者)から直接「ケースワーク」を学ぶことができたのも幸運なことでした。
大学を卒業する時点で、岡村理論とケースワーク理論を学ぶに及んで、一生をケースワーカーとして働きたいという思いと、現実の社会のなかで人間はどのように生き、かつ成長できるのかを見極めたいという思いを固めていたのでした。