地獄三丁目前
青鬼「地獄三丁目前‼ 三丁目前‼ 早く降りてください」
何人かがぞろぞろ立ち上がって、のろのろと歩き出しました。私の座っている車両より三両ぐらい後ろの車両だと思います。果たしてこの人たちはどんな悪いことをして地獄三丁目で降りるのでしょう。私は伏し目がちに恐る恐る見ました。たしかに一丁目、二丁目の人達とは違った凄さを感じました。私とは遠いはずの車両の人達が、何故かすぐ隣の車両にいるように私には近くに見えるのです。降おりる人達の顔が不思議なほどよく見えて、その表情もさまざまでした。
私はふとTVで見た日本の裁判官の顔を想像しました。襟を正し、実に厳粛な姿勢で判決文を読み上げます。被告の態度はさまざまでした。
そして罪状に対する判決や逮捕に至った犯行もさまざまで、実に難しいものだとつくづく感じました。
私は人間は常に感情と理性とのはざまで生活していると思おもっています。それだけに裁判の判決が下るまでに、何年もかかる場合があります。
それなのに何百人かの罪人を一度に処理する大王様の能力に、私は深い敬意を払い感謝をしました。
三丁目で降りて歩く達は岩肌のゴツゴツした道みちを素足でひいひい言いながら三途の川をめざして歩いていて、その姿を見た私は「どうか改心して今度こそ真人間になって現世に戻って来て下さい」と心から祈りました。
罪人達は次第に遠くへと行き過ぎました。そしていよいよ次が地獄四丁目だと思うと、私は足が次第にふるえてきました。
走る列車のあたりが次第に暗くなって、やがて稲光がして小雨が降ってきました。更に風が強く車窓を打ちつけて参りました。私の体がだんだん硬くなる気がします。
すると青鬼さんがニコニコしながらやって来きました。私は少し安心しました。
私「いよいよ今度は四丁目ですか?」
青鬼「そうだ。四丁目ってのはな、お前達が想像している銀座四丁目のような賑やかな街とは全く違うんだぞ! 昔は地獄は八丁目まであったが、大王様が行政改革をやって四丁目までにしたんだ。そこは地獄の中でも一番厳しいところだから、お前も見学者として責任があるからよく見学しておきなさい!」
私「そんなこと言われても、私はもう足がガクガクして」
青鬼「そうか、案外お前も気が弱いんだな。無理にとは言いわないが……」
私「はい、わかりました。折角招待されたのですから頑張ります‼」