事例3 盗まれた提案書 「何でも言いなさい」のゲーム
起こった事実
この話は、私が会社に入って間もない、まだ新人と言っていいころの話です。
私のいた会社では当時、各製品に対する各々の事業部があり、私は、それら事業部とは別のエンジニアリング部門に所属していました。仕事の進め方としては、各事業部が化学プラントに関する工事を起案して、エンジニアリング部門に設計を依頼するという形式がとられていました。ただ、各事業部における工事の起案以前にも設計の手助けが必要となることもありますので、工事を起案する前にエンジニアリング部門の人間が事業部の会議に出席して、オブザーバーとして意見を言うといったケースもまれにありました。
あるとき、私は、ある事業部の進むべき将来を検討する会議に、オブザーバーとして呼ばれたのです。実は、私には、その事業を将来こういう方向に進めるべきではないか、という考えがありました。その考えを人に説明するには、複雑な説明図が必要でしたので、私は手書きでその提案書を作成して、その会議で事業部のメンバーに配り説明したのです。
手書きにした理由は簡単で、説明図が複雑であったことと、設計という仕事上、私は手で線や図形を描くといったことが苦ではなかったからでした。
さて、事業部の会議で、私の提案は大いに賛同を受け、その内容を事業の統括責任を持つ役員に提案しようということが決まりました。私は、自分の提案が受け入れられて大変満足し、充実した気分を味わうことができたのです。
さて、その事業部の会議から3日ほど経った日のことでした。
当時、私は工場に勤務しており、同じ工場の敷地内に会議のあった事業部の生産プラントがありました。私は、野暮用があって、その生産プラントの事務所をたまたま訪ねました。すると、驚くような光景を目にしたのです。その生産プラントを統括する課長が、自分の机の上で、なぜか、私のつくった手書きの提案書を、そっくりそのまま別の紙に一生懸命に手で書き写していたのです。
私は、その課長に聞きました。
「〇〇課長。一体何をされているのですか? △△役員には私のつくった提案書を見せればいいじゃないですか? もし、もっと綺麗に書けということなら、私が書きますよ」
すると、その課長は、バツの悪そうな顔をして、薄笑いを浮かべながら、こう言ったのです。