双頭の鷲は啼いたか

二人で乾杯して再会をお互いに喜んだ。浩介は何でもはっきりと言う性格で裏表がなくて、タケルはそんなところが良くて大学時代からウマが合った。自分は湿っぽい性格だったので、明るくて顔立ちの整った浩介に憧れていた。

「あの事故の後だったね」

「あの時はびっくりした。メールの返事がないから電話をかけた時、お母さんが出てさ」

「うん、そう。僕が昏睡状態の時に、一度来てくれたんだったな」

タケルはあまり思い出したくなかったので、この話題を変えたかった。大学最後の年の冬休み直前、塾講師のバイトが終わり最終バスに乗ろうと走っていて前をよく見てなかったために、左折するバイクにはねられてしまったのだ。

「心配かけて、ごめん」

「びっくりしたよ、あの時は。でもこうして元気になって良かった」

浩介は微笑んで枝豆をつまんでいた。

「契約社員を二年過ぎてやっと正社員になれるんだ。必死さ」

「そうか、あまり無理するなよ」

浩介は枝豆を飲みこんでむせていた。

「ありがとう。今も体には傷跡があり、時々頭痛もあるんだ」

「大丈夫か? 俺も仕事のことで上司に怒られて満身創痍さ。タケルと同じ」

浩介もネクタイを外し、上着のポケットに入れた。

「浩介なら、うまくやれるよ」

「そうでもないわ、ま、お互いに頑張ろう。でも頭痛とか、後遺症があるなら早く病院行けよ」

「ありがとう。次の平日休みの時に行こうと思っていたんだ」

正直に言った。 

「それがいいよ。また来月にもこうして会おう。お互いに仕事の愚痴を話そう」

夜は更けて時間を忘れるくらいに、くだらない話をして久しぶりに笑った。なけなしの貯金を株に投資して失った事や取引先の受付のAIと喧嘩した事、浩介の話はとても面白かった。自分の悪夢の話はさすがにできなかった。話したかったが。

事故の後は記憶を失くしたこともあり、直近の事が分からなくて他人にかかわるのが嫌で仕事だけに逃げてきた。仕事場の人間関係は、上司の松永さん以外の女性スタッフはよく変わるため、ちょうどよかった。秋元さんはたまたま二年一緒だが、嫌われたくなくて私生活の話をしなかった。上司の松永さんは親父くらいの年齢だが、忙しく他の校舎を会議などで飛び回っているのでなかなか話もできなかった。