第二話  東日本大震災物語

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私にとって衝撃的な出来事であった天皇、皇后両陛下を拝見したのち、私は某大学の教授の研究室を訪ねていた。

「教授、先日、両陛下を拝見して以来、私は天皇についていろいろ調べておりまして、天皇は国民の平安や安寧を祈っておられる人であることは分かるのですが……、もっと詳しく教授の解説をお聞きしたくて参りました」

「あーそうですか。濱本先生、まず、世界の中に6つないしは7つの文明があるのを知っていますか」

「はい。欧米の学者たちが確か、『西欧キリスト教文明』、『ロシア正教文明』、『イスラム教文明』、『ヒンズー教文明』、『シナ文明(中華文明)』、そして『日本文明』があるのは知っています」

「そこでね、日本以外はみんな複数の国に広まっているんだが、日本だけは1つの国で1つの文明を作っている唯一の存在なんですよ」

「そう言われれば、そうですね。日本って相当独自性のある国なんですね」

「そうなんです。漢字仮名交じりの文章を書いたり、神社とお寺が見事に共存している国はないですね。また、日本文明の中核には神話時代からずっと続いている皇室があります」

「現在の天皇陛下で125代になるんですね」

「その歴史を綴っている『古事記』から天皇の歴史を簡単に説明しましょう」

「はい。お願いします」

「この世の中が混沌としていて、くらげのような状態であったとき、神々がお生まれになり、最初にアメノミナカヌシ、そしてタカミムスビ、カミムスビ、やがて神代最後の7代目に伊邪那岐(いざなぎ)の命(みこと)がお生まれになり、お后(きさき)が伊邪那美(いざなみ)の命(みこと)です。

その後、お后の伊邪那美命が亡くなられ、それを追って死後の国に行かれた伊邪那岐命は、亡くなった伊邪那美命をもう一度見たいと懇願するんですが、死後、体は腐敗し夫に見せられるような姿ではなかったので、かたくなに拒否をするんですが、しつこく夫がいうものだから、仕方なくお后はお姿をお見せになるんだよ」

「教授、それでどうなるんですか?」

「うん。夫はね、自分の妻を見て、あまりの変わり果てたお姿を見て、逃げてしまったんだ」

「そりゃまずいですね。お后にしては許せないですね」

「血相を変えて、死の国、底の国から必死に夫は逃げようとしたんだね。夫を捕まえようと、お后やたくさんの鬼が追いかけ、もうちょっとで夫を捕まえようとしたとき、夫はそのときに、木々になっていた果実を投げ、その果実には鬼を払うパワーがあったため、鬼は退散したんだよ」

「教授、その話は2月3日の節分の話ですね」

「そうなんです。いいところに気づきましたね」

「ところで、その果実は何ですか?」

「桃なんです」

「へえー。その後、炒り豆にかわって節分のときに『福は内、鬼は外』ってやっているんですね」

「で、必死の思いで、逃げた夫である伊邪那岐命が顔を洗った際に、左目から誕生したのが天照大神(あまてらすおおみかみ)、お鼻からはスサノオノミコト、右目からはツキヨミノミコトがお生まれになったんだ。これを三貴神と呼ぶんだよ」

「そこから伊勢神宮に奉られている天照大神や出雲の神話で出てくる八岐大蛇(やまたのおろち)を退治したスサノオノミコトが出てくるんですね」

「天照大神の孫がニニギノミコトで、そのひ孫が初代天皇である神武(じんむ)天皇なんだよ。これが紀元前660年と言われているんだよ」

「教授、古事記を通して神代の時代から、現代までの天皇の流れが分かりました。ありがとうございます」

「ここでコーヒーブレイクとしようか、濱本先生。そういえばこの前いただいた、『はまもとコーヒー』を飲もうか。これは濱本先生のご親戚ですか?」

「いいえ、長女の剣道の全日本大会が姫路であり、そのときにたまたま散策していましたら、見つけたお店なんです。いろいろな人に差し上げるんですが評判がいいんですよ」

と、二人でドリップ式の「はまもとコーヒー」を飲み、天皇の話がさらに深まっていったのである。

「うまいね、濱本先生このコーヒーは」

と、ほおを緩ませながら教授は天皇の話を続けた。

「濱本先生、レガリアという言葉を知っていますか?」

「はい、それを持つことによって正当な王位継承者である証明となるものですよね。たとえば、イギリスだと王冠、王笏(おうしゃく)、宝珠。タイ王室だと王冠、短剣、杖、あとたしかスリッパ、その他にもあったと思いますが忘れました。アメリカにはないですよね」

「じゃあ 日本は何だか知っていますか?」

「教授、それを知らなかったら、中学・高校の昔でいうところの社会科の授業をサボっていたことになりますよ」