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敬一さん、脳血管障害で倒れる

食事も全くしていないことにやや疑問を感じていた和子さんは、その日の回診の際に、いつもは話しかけることがない主治医に、

「うちの主人のことですが、入院してから何も食べていないのですが、大丈夫なんでしょうか?」

と、おそるおそる尋ねてみた。すると主治医の益田医師は、

「田中さん、入院してから何度かご説明しましたが、ご主人の敬一さんの栄養の管理は今のところ点滴でやっています。ばたばたしている時期にお話ししましたから、詳しいことをはっきりとお伝えすることができなかったのかもしれませんね。あらためてご説明いたしましょうか?」

とにこやかに応じてくれた。

「お願いしていいかしら」

遠慮がちに和子さんは頼んでみたところ、

「では、5分くらいで、かいつまんでご説明いたしましょう」

益田医師はそう答えてから、説明を始めた。

「ご主人の敬一さんは左脳の3分の1が脳梗塞に冒されてしまい、今のところ意識も十分に戻っていません。この状態では食事を摂取することもできないので、奥様に同意を得て右の鎖骨下の静脈にカテーテルという管を挿入してあります。入院して間もなく入れたのを覚えていらっしゃいますか? このカテーテルから、高濃度のブドウ糖の点滴を中心としたメニューで、1日に1500ccほど注入しています。この点滴の中にはさらにタンパク質の元になる成分や、必要なビタミンなどの成分を、データを見ながら量を調節しつつ混ぜるようにしております。それによって、脳梗塞から回復するために必要な栄養の確保がなんとかできている状況です」

カテーテルなんて言葉、聞いたような、そうでないような。いずれにしても点滴で気の回復に必要な栄養が与えられていることを、たった今和子さんははっきりと認識したのである。