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胸騒ぎがする医師面談、夫の容態を告げられ…
次の週の土曜日、13時くらいがいいだろうと思って、和子さんは長女の春菜さんを病室に呼んだ。益田医師とは14時に面談の予定になっていた。
「お母さん、お父さんの見た感じはあんまり変わらないわね。まだ、全然しゃべらないの?」
「全然。話しかけるとちょっとは反応するけど、まだ水も飲めない状態なんだよ。だんだん顔がむくんできたから、なんかかわいそうでね。早く口から何か食べられるといいんだけど」
春菜は母親の疲れた表情を見ながら、言いかけた言葉を飲み込んだ。彼女は自分の父親は歩くことはおろか、もう話すことも、食べることもできないだろうと思っていた。母親の期待は理解できるのだけど、とても儚い希望のような気がして、ついつい言葉が出そうになるのだ(お母さん、お父さんはもう食べることも話すこともできないと思うよ)。──思ったことが言えないというのも、つらいものだなあ。春菜は、おそらく生まれて初めてそんなことを考えていた。
益田医師は予定より10分くらい早く病室に現れた。
「田中さん、こんにちは。ちょっと早いですが、よろしいですか?」
「あ、先生こんにちは。娘も来ていますし、私たちはいいですよ」
「では、看護師詰め所の隣にあるお部屋を用意しましたので、おいでください」
そう言って、益田医師は病室を出ていった。いざ詳しい話を聴くとなると、なにやら胸騒ぎが止まらない和子さんであったが、春菜に急き立てられるように病室を出た。
「なにかどうも気が進まないわ。行きたくないわね、先生のいる部屋に。そう思わない春菜?」
「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ。先生がお待ちになってるのよ。お母さん、早くして、ほら行くわよ」
春菜も明らかにイライラしていた。