新之助は、見た目はかなりしっかりした何処かの若様に見えるのだ。頭はぼんくらではないらしい。きちんとしているが、なんせ遊び歩いている。この環境が悪いのだろう、時々あらぬことを口走る。後は普通だった。

夕方に近い七ツ(午後四時ごろ)に、早引けをした麻衣は、店の出口に行った。出口のところに、新之助が待っている。新之助は、胸がドキドキしていた。自分の好きな麻衣が来るのだ。本当に、どんな気持ちだろう。麻衣が出てきた。

「お待たせしました」

にこやかに挨拶する。

「おおー」

新之助は上ずって、麻衣を見る。麻衣はきちんとした身なりだった。だが、武家風の着物を身に着けている。新之助は言った。

「どうしたんだ、その身なりは……」

「だって、わたし武家だから、普通よ」

麻衣はさりげなく言う。

「武家……?」

「そう……」

新之助は口をあんぐり開けて、麻衣を見守った。麻衣が武家だとは知らなかった。新之助は、ただ麻衣を見つめるばかりだった。だが、着物は似合っていた。

「わ、すごい人ね」

「そうだな」

原草寺は、すごい人出でごった返していた。新之助は、まだ頭がこんがらかって、平常心になれないのだ。以前から好きな女が、武家だとは……。本当だろうか。新之助は、もうあまり考えないことにした。こっちが動転して、相手は落ち着いている。そんなことが我慢できるわけがない。もうこうなったら、自分の好きなようにする。

「ね、おみくじ買ってちょうだい」

麻衣が言った。

「おう」

新之助は返事をする。おみくじは、麻衣のは中吉だった。新之助は、大吉だった。

「ま、あんたいいのね」

麻衣はそう言って、新之助を見る。麻衣の目はキラキラ光って、射すくめるようだった。それを見て、新之助は、また麻衣にのぼせ上がるのだ。麻衣は新之助を軽く眺めていた。だが、一緒に歩いていて、印象が変わってきた。この人、あんがい頭はしっかりしているわね。