神の言葉

歯磨き粉が切れている、と夫が言っている。

私は我に返る。

「歯磨き粉ならあそこですよ」

と言いながら洗面所に向かう。

「あそこじゃわからん」

と夫はむくれている。

あなたはいつもと同じ朝だと思っているだろう。

けれども明日の朝、私はもういない。

私は神の言葉を人々に伝えるために旅立つ。

なぜ私なのか。

それはわからない。

神はただ私を急かす。

私は神に追い立てられるように家を出る。

街に出て私は人々に呼びかける。

悔い改めなさい、と。

けれども誰も足を止めない。

時には邪険に追い払われる。

それでも神は私を解放してくれない。

次の街へと急き立てる。

国の中心に行かなければ。

そう私は考えた。

国を動かす人の目を覚まさなければ、この国を変えられない。

私は国会議事堂に行った。

首相官邸に行った。

経団連会館に行った。

財務省に行った。

首相の自宅に行った。

経団連会長宅に行った。

財務事務次官宅に行った。

皇居に行った。

そうして追い返された。

けれども私は何度でも繰り返す。

彼らは本当は私が正しいことを知っている。

だが、彼らは自分の過ちを認めたくないのだ。

殴られても蹴られても、私はそれらの場所に通った。