② 友() れし青林檎(あおりんご)()旅鞄(たびかばん)

・作句の意図 十一月下旬の句会に出した句。旅先で「一山千円、少々傷あり」の林檎を買った。道端で買ったとするより、友からもらったとした方が詩情がある。林檎の種類はデリシャスだったが、青林檎の方が、香りも強く、色も若い友に合っているので、青林檎にする。帰宅し旅鞄を開けると、青林檎の香りがして友の顔が浮かんだという、詩情にあふれた句である。

・結果 青林檎は夏の季語。冬(十一月七日頃が立冬)の句会に出句するのは非常識。

俳句は今の季節かまたは前倒しで次の季節を詠む。青林檎以外の種類の林檎ならば秋の季語なので、句会の季語選択のルールから少し外れるが、冬の句会でもまあセーフだっただろう。だが、夏の季語は論外。復習になるが、朝顔、七夕、(ひぐらし)などは秋の季語。新暦で暮らす私たちには、夏の風物のように感じるが、日ごろから歳時記に親しみ、季語の確認が必要との注意があった。

③ 銀行去り吟行(ぎんこう)してゐる冬帽子

・作句の意図 作句のため、野外や名所旧跡などへ出かけることを吟行というそうだ。私も誘われて横須賀へ行って、港のクルーズやどぶ板横丁散策を楽しんだ。銀行を退職し、今は俳句の吟行をしている、第一線で働いていた頃に比べて、第二の人生のちょっとした寂しさを、季語冬帽子に託した。俳句には俳諧味(はいかいみ)を求める一面がある。俳諧の(かい)はたわむれ、おかしみ滑稽(こっけい)の意味だから、同音異義語で、謹厳実直な銀行生活と余裕の風流な吟行の落差を表現して滑稽味を狙った句。

・結果 銀行と吟行は駄洒落で、俳句では禁物。駄洒落は諧の範疇(はんちゅう) ではないと、たしなめられた。