歌劇 『雪女の恋』
❖登場人物
雪女 こゆき
姉 ふぶき
里人 弥助
山の神
第六場
〈合唱〉が浮かぶ。
男声: 人里では 夕暮れから雪が 舞い始めた
弥助は 裏山で 柴刈りをしていたが
牡丹雪が 粉雪に変わったので 帰り支度にかかった
女声: 家に近づくと 不思議なことに 台所の小窓から 白い湯気が出ている
誰だろう?
小走りに 中へ入ってみると 若い女が 夕餉(ゆうげ) の支度をしている
男声: 女は 小夜(さよ)と名乗った
他の里から この村に来た者だが 行くところもない
嫁にしてくれ と言う なぜか 親しみを覚えた
女声: 束ねた黒髪 白い肌 澄み切った瞳
男声: なぜか 愛しさを感じた 弥助は 女と 夫婦(めおと)になった
女声:女は 小夜 小夜は こゆき 里の女に 身を変えた こゆき
男声: 弥助は 知らずに 夫婦(めおと)になった
一年経って
女声: 玉のような 赤子が生まれた
色白で 目元の美しい 女の子
男声: 二年目になり
女声: 幼子(おさなご) は よちよち 歩き始めた
小夜と弥助に 笑顔がこぼれる
里の夫婦は 助け合う
日が昇れば野良(のら)に出て
日が沈めば土間で藁仕事(わらしごと)
囲炉裏端(いろりばた)で子をあやす
暮らしの中で 幸せ 幸せが ひろがる
男声: やがて 二年が過ぎ去り
三年目が訪れる
女声: 三年目
男声: 人里降りて三年目
月が一夜で欠ける年 天空の満月が新月に変わる夜
里の女の姿は消えて もとの雪女に変わるべし
女声: こゆきと 弥助は 異なる命 別れる運命
合唱: 別れの夜が 近づいていた
こゆきの胸が 締めつけられる
運命(さだめ)の夜が 目の前にあった
あふれる思いで 身がよじられる
舞台溶暗。
第七場
音楽「名残(なごり) の眠らせ唄」の旋律。舞台溶明。
誰もいない空の舞台。こゆきが、舞台上手から「わが子の手」を引いて現れる。
※無対象演技で、実際には子役はいない。
こゆきは「小夜」になっており、衣裳も里の女のものになっている。
音楽「名残(なごり) の遊ばせ唄」。こゆきが、「わが子」を相手に楽しげに歌う。
こゆき: こんこん小山(こやま)の子兎(こうさぎ)は
なぜにお耳が長(なご)うござる
おッ母(か) ちゃんのぽんぽにいた時に
長い木の葉を食べたゆえ
それでお耳が長うござる
こんこん小山の子兎は
なぜにお目々が赤(あこ)うござる
おッ母ちゃんのぽんぽにいた時に
赤い木の実を食べたゆえ
それでお目々が赤うござる
こゆきは胸がいっぱいになり、動きが止まる。
こゆきは「おんぶ」の格好をしながら歌う。
こゆき: いい子だ いい子だ ねんねしな
この子の可愛さ 限りなさ
天に上れば 星の数
松葉の数より まだ可愛い
ねんねんころりよ おころりよ
山では木の数 萱(かや)の数
この子の可愛さ 限りなさ
弥助が、下手に現れる。こゆきは、悲しみのためにその場にしゃがみ込む。
音楽「小夜の涙 弥助の思い」。